第一章:見られている、という快感 ― 都会の隙間で芽生えた背徳
青山の路地裏にひっそりと佇む、会員制のコワーキングスペース。
私はそこで、誰にも邪魔されずに原稿を書き上げる数時間を過ごすのが習慣だった。
その日も、いつもの窓際の席に腰を下ろし、カフェラテのカップに指を添えていた時だった。
ふと、奥のブースに、彼がいた。
白いシャツ、端正な横顔。スリムで背が高く、年齢は私と同じか少し下くらいだろうか。
けれど、私の背筋を粟立たせたのは――その「視線」だった。
まっすぐに、でも挑むような強さではなく、
まるで私の“奥”を探るような、沈黙の中に湿度を孕んだまなざし。
それは私の肌の表面ではなく、喉の奥や太ももの裏、
触れられたことのない場所に、静かに沈んでくるような眼差しだった。
私は下着の中に微かに汗を感じた。
カップを持つ指先に力が入り、呼吸が少しだけ速くなる。
誰にも気づかれない。
でも、確かに見られている。
この空間の中で“女”として認識されているという、説明のつかない陶酔。
私はパソコンを打つ手を止めず、唇の端だけをほんの少しだけ上げてみた。
そうしたら――彼の口角が、まるでそれを歓迎するかのように、同じように僅かに動いた。
言葉も交わしていない。名前も知らない。
けれど、私たちはもう、“何か”を共有していた。
第二章:触れられない交わり ― 視線だけで濡れる夜
翌週も、彼はいた。
そして、また私を“剥くように”見ていた。
本当に、視線だけで下着の中まで覗かれているような錯覚。
私はますます、ワンピースの中の自分が敏感になっていくのを感じていた。
ノーパンで来たらどうなるんだろう――そんな妄想さえ頭をよぎった。
そして三度目の視線の夜、彼が近づいてきた。
「ずっと…気になっていました」
低く、抑えた声。それだけで、膣の奥がピクリと反応した。
私は笑うふりをして、喉の奥が乾いているのをごまかした。
でも、身体はもう知っていた。
この男と交わることが、私の“禁忌”であり、“願望”であると。
バーでは多くを語らなかった。
カウンターで隣同士になった彼は、私のグラスに口をつけた。
その唇が触れた縁を、私はわざと舐めた。
すると、彼の瞳が、いっそう濡れたように光った。
帰り道、彼は私の背中に手を添えて歩いた。
そして、青山のコワーキングスペースに引き戻された。
深夜のフロア、誰もいないガラス張りの会議室。
彼がノートPCの認証を使って、個室を開けた。
中に入った途端、私は押し倒された。
でも、それは乱暴さではなく、まるで“合意済みの決壊”だった。
彼の手が、私の腰をつかみ、ワンピースの裾を一気にたくし上げる。
生地が太ももを擦り、静電気のような快感が走る。
「下、履いてないんですね」
その囁きに、私は目を閉じた。
だって、もう履いていなかったから。
視線だけで脱がされた私が、今さら何を守れるというのだろう。
第三章:奥まで見られ、奪われ、赦された朝
会議室のソファに背を押し当てられ、私は脚を開いた。
彼の舌が、私の奥を探る。
柔らかく、時に乱暴に。
そして指が、喉奥に指を突っ込まれるように、ぐっと入ってきた。
「やらしい音、してる」
彼の声が耳の奥に残るたび、私は羞恥と快楽の間を行き来した。
自分がどんな顔をしているのかも、わからなかった。
乳首に唇が触れたとき、もう私は我慢できなかった。
「だめ…そこ、だめ…あっ、もう…」
声を殺すのが精一杯で、脚の震えが止まらなかった。
彼のものが入ってきたとき、私は叫びそうになるのを唇を噛んで止めた。
でも、内側の筋肉が勝手に締まり、彼を奥へ奥へと誘っていく。
「あなた…ほんとに濡れてる。こんなに…」
汗ばんだ額と額が触れ合い、腰がソファに打ちつけられるたび、
何かが崩れていく音が聞こえた。
快楽の頂点で、私は「誰でもない女」になった。
名も、年齢も、仕事も、家庭もすべて忘れた。
ただ、視線ひとつで“女”として狂わされた存在として、
彼の中で痙攣しながら、果てた。
静寂が訪れたとき、彼の指が私の頬に触れた。
「…この部屋、もう俺たちのものですね」
私は微笑んだ。
でも、その奥で――罪悪感、快感、絶望、赦し――すべてが渦を巻いていた。
余韻:今も、私は脱がされ続けている
あれ以来、私たちは会っていない。
でも、彼は今も、私の中にいる。
通い慣れたコワーキングスペースでパソコンに向かっていても、
ふとガラス越しの“視線”を感じることがある。
それは彼ではなく、私自身の奥に巣食う“女”の顔。
あの夜、私が脱いだのは下着だけじゃなかった。
理性も、妻としての役割も、道徳さえも、ひとつずつ剥がされた。
だから今も――
誰かの視線がふと私に触れるたび、私はまた、あの夜の自分に戻ってしまう。
「見られてる…」
そう思った瞬間、私はまた濡れている。
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