子育てに疲れた私が“女の快楽”を思い出した午後──エステで解かれた身体と心の記憶

第一章:家事と母性に埋もれた身体の、奥の奥

ベランダに干した洗濯物の影が、風に揺れる。午後の日差しは優しいのに、胸の奥にはずっと乾いた空洞があった。
35歳。杉並のマンションの一室。夫は都心の会社へ、子どもたちは保育園と小学校。今この瞬間だけが、私だけのものだった。

でも、「私のもの」ってなんだろう。
誰の手にも触れられず、誰の目にも映らない身体。
何年も、自分の胸にさえ意識を向けたことがなかった。

そんな私がその日、なぜエステに行こうと思ったのか、自分でも説明がつかない。ただ――呼ばれるように、予約ボタンを押していた。

サロンのドアをくぐった瞬間、甘く湿ったアロマの香りが私の喉奥を撫でた。

「高橋さまですね。ご案内いたします」

ゆっくりと振り返った男性スタッフの目が、私を一瞬で射抜いた。
黒曜石のような深い瞳。柔らかそうな前髪の奥からのぞくその視線に、私は喉を詰まらせた。

「北村と申します。本日はリンパ90分、ご体調に合わせて調整しますね」

その声に、下腹がわずかに熱を帯びるのを感じた。
施術室へ導かれる背中――広くはないが、精巧に研ぎ澄まされた肉体のライン。
私はもう、この時点で心のどこかで予感していた。
今日、“なにか”がほどかれてしまうことを。


第二章:指がふれるたび、“女”が目覚めてゆく

施術着に着替え、うつ伏せになる。ガウン越しに背中にオイルが垂れる音、その一滴が私の皮膚を伝うたび、肌がざわめいた。

「失礼します」

低く響く声とともに、彼の手が背中に置かれた。
その瞬間、脊髄を通ってぞくりと何かが走る。

温かく、確かな掌。滑るのではなく、包まれる。
肩甲骨のラインをなぞる指は、私の身体の地図を知っているかのように迷わず深く滑ってゆく。

「…このあたり、相当張ってますね。ご自分のこと、後回しにしてませんか?」

言葉が胸を刺す。
私は、返事の代わりに小さく震えた。

やがて指先は、腰のくびれへと向かう。骨盤の際に触れたとき、ふっと息が漏れた。
彼は何も言わず、その反応を確かめるように、親指をゆっくりと押し広げる。

「深い呼吸、してみましょう」

言われるがまま、私はゆっくりと息を吸い、吐く。
でも、彼の手が臀部の丸みを縁取るように滑ったとき、呼吸は乱れ、思わず喉が鳴った。

彼の手が、私の太ももの裏をなぞりながら内腿へと滑り込む。
ガウンの裾が自然にめくれ、柔らかな肌が露になる。
その瞬間、空気の冷たさと彼の指の熱さが交差し、私の奥がじわりと濡れていくのを、私は止められなかった。

「仰向けに…なれますか?」

震える脚を動かしながら仰向けになると、彼の視線が、私の胸元に落ちた。

オイルを垂らした手が、鎖骨から胸元へと滑る。
ガウン越しにふくらみをなぞるその指に、乳首が反応し、すぐに硬くなった。

そして――彼の指が、ガウンの前を静かに開く。

「……」

彼は何も言わない。ただ、ゆっくりと乳房の先端を指先でつまみ、転がすように撫でた。
思わず「ん…」と声が漏れたとき、彼はそこに唇を寄せた。

舌先が、まるで儀式のように乳首を包む。
私の身体は、彼の口元に吸い寄せられるように反応していた。
脚の付け根から奥へと、波のような熱が広がっていく。


第三章:満たされ、こぼれ、赦されたあとに残るもの

「もう少し…奥を整えても、いいですか」

彼の囁きに、私はただ首を縦に振った。
そして、そのまま脚を少し開くと、彼の指がゆっくりと下腹部へ滑ってきた。

鼠蹊部の奥、濡れてしまっている私の“中心”に、指が触れた瞬間、腰が勝手に浮いた。

「大丈夫。ゆっくり……感じてください」

彼の指が、粘膜をなぞるように、じっくりと奥へ沈んでいく。
あまりに丁寧で、あまりに深い愛撫。
指が1本、そしてもう1本。中を探るように動きながら、私の壁を押し広げ、なかで脈打つものに触れようとする。

私は、目を見開いたまま天井を見つめ、口からは甘い声が漏れつづけた。

やがて、彼は身体を覆いかぶせ、私のなかへとゆっくりと自身を沈めた。

「……熱い」

自然に出た私のその声に、彼は目を伏せながら、深く、深く突き入れた。

奥へ。さらに奥へ。
彼が揺らすたび、ガウンが乱れ、汗ばんだ肌と肌がこすれ合う。
耳元で彼の吐息が、獣のように荒くなっていくのがわかる。

私は彼の背中に腕をまわし、脚をからめ、奥まで受け入れる。

「もう……ダメ、あっ……ああっ」

波が押し寄せる。身体の芯から震えが走り、ついには声が途切れ、意識が白くなる。
その最中、彼は私の名を一度だけ、呟いた。

すべてが静かになったあと、私は汗に濡れたまま天井を見上げた。
ガウンを直そうともしない私に、彼はタオルを掛け、そっと髪を撫でた。

「……綺麗でしたよ。あなた」

その一言に、涙がこぼれた。
それは、母でも妻でもない、たったひとりの“私”が、ようやく赦された気がしたから。


終章の余韻:

エステを出た午後1時。
空は晴れていた。
手帳には「施術」とだけ書いてあるけれど、あの時間は、人生の再生だった。

あれから私は、自分の肌を大切に扱うようになった。
鏡に映る自分の身体に、ほんの少しだけ「好き」と思える瞬間が増えた。

“女”は、誰かのために装うものじゃない。
奥に眠るそれを、呼び起こすのは――自分自身の決意と、誰かの温かい手かもしれない。

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