【第1幕:揺れるラケットと、焦げた午後】
放課後のコートには、まだ熱が残っていた。
夏の空気は白く霞み、誰もいなくなったベンチの向こうに、先輩の車がぽつんと停まっていた。
私は水筒を持ったまま、何とはなしにそちらへ歩いた。
「お疲れさまです」って、いつもみたいに、声をかけたかっただけ。
けれど、立ち止まった。
窓越しに見えた先輩の表情。
シートに深くもたれた首。
わずかに開いた唇。
そして……助手席にかがみ込んでいる、艶やかな黒髪の女。
動けなかった。
耳が、焼けたように熱くなった。
見ちゃいけないのに、見てしまっていた。
唇が、どこに触れているのか分かったとき、
ふとももが、きゅっと震えた。
私は知っている――あの人が、何度もボールを拾ってくれた優しさを。
でも今、彼は誰かの口の中で、別の熱に溶かされている。
喉がひりついた。
夏なのに、冷たい風が、胸の奥に吹いたようだった。
【第2幕:フェンスの向こうの熱】
夜、寝つけなかった。
ベッドの上で、私は制服のまま、あのときの先輩の顔を思い出していた。
見たことのない、くずれた表情。
あんなふうに感じていたんだ――女の口の中で。
誰なの、あの人。
どうして人妻だって、分かったんだろう。
車のドアが開いた一瞬、指に見えた結婚指輪。
爪の先が、細くて白くて、色っぽかった。
私はまだ、誰かの身体を舐めたことも、咥えたこともない。
でも、唇に触れるイメージは、どうしようもなく焼きついていて。
枕を濡らしながら、膝を抱えて、何度も指を伸ばしてしまった。
知らないはずなのに、なぜか“分かって”しまっていた。
口に含むって、ああやって見上げながら、喉の奥まで使うものなんだと。
私の指は、制服の下で、湿った熱を探していた。
それは、先輩の声が聞きたくて。
あの人が誰かに奪われていくようで、悔しくて。
でも――その奥にあるのは、羨望だった。
私も、あんなふうに咥えられたい。
そんなこと、初めて思った。
【第3幕:咥える想像で濡れていた】
翌日、部活帰りにまた先輩の車を見つけた。
今日は、一人だった。
窓を開けて、笑って手を振ってくれた。
「送ってこうか?」と――。
私は黙ってうなずいた。
助手席に座ると、革のシートが熱を帯びていて、
まるであの女のぬくもりが、まだ残っているようだった。
運転する横顔に、言葉は出なかった。
ただ、ふとした拍子に、彼の手元に目が吸い寄せられる。
この指が、昨日、誰かの頭を撫でていたのかもしれない。
あの唇に、息を飲み、腰を浮かせていたのかもしれない。
考えれば考えるほど、
私は、脚を閉じていられなくなっていた。
車の揺れと、窓からの風と、
何より、彼の“何も知らない顔”が、私の中を焦がしていく。
私は――まだ何もされてないのに、
フェラの想像だけで、下着を濡らしていた。
あの時の、濡れた助手席の影だけが、今も身体の奥で疼いている。



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