第一章:欲望は、結婚指輪の下で疼く
都内・中目黒。結婚して2年目。
27歳の私は、週に3日は在宅勤務、夫は外資系の多忙な営業マン。
夜帰ってくる彼は疲れきっていて、私の手を握ることさえ忘れてしまう。
セックスレスというほど極端ではない。
3ヶ月に一度、同じ順番で、同じ時間で終わる…。
私を見つめながら優しく入ってくるけれど、私の深部には届かない。
いや、本当は、私が欲しいのは「愛撫」ではなかったのかもしれない。
ある日、深夜0時、ワインを飲みながらSNSを流していた私は、ふと目にした匿名掲示板の一文に凍りついた。
「優しさなんかじゃ、もう濡れないあなたへ。
鎖か縄か、どちらが似合うか、教えてください」
気づけば手はスマホを握りしめ、鼓動は夫の愛撫では感じないほど激しく鳴っていた。
そして私は、メッセージを送ってしまった──「縛ってもらえますか?」と。
第二章:その縄の手触りは、私の奥に届いた
彼の名前は名乗らなかった。
返信には「金曜の19時、目黒の○○ホテル前のカフェで」とだけ。
不安と期待に濡れながら、私は結婚指輪を外してその場に現れた。
48歳。黒のシャツに、無骨な時計。
指には革が馴染み、目元には余裕と静かな嗜虐が滲んでいた。
「怖くないですか?」と彼が言ったとき、私はふと自分の首筋が甘く脈打っていることに気づいた。
そして、部屋に入った。
照明を落とすと、スーツケースから取り出されたのは、麻縄、手枷、アイマスク、そして…唾を飲むほど艶めいた革の鞭だった。
「自分の意思で来たんですよね?」
私は頷いた。
その瞬間、背中に重たい布が落ち、後ろから抱きしめられながら、腕を後ろ手に縛られた。
「何が欲しい?」
「わたしを…、壊してください……」
アイマスクをされ、聴覚だけが研ぎ澄まされる。
すぐ隣で鳴るベルトの音、縄の摩擦、彼の吐息。
頬をなぞる革の冷たさ、耳を甘く引く声──「声を出していい、ただ逃げないで」
バスローブのまま、乳房を握られ、指先だけで愛撫されると、私は既にびしょ濡れだった。
縄は腰骨にかかり、少しずつ締め付けられ、股間の奥まで熱が移る。
鞭が落ちた瞬間、私は快楽で涙を流していた。
苦痛ではない。羞恥と救済のあいだにある甘い崩壊。
四つん這いのまま、後ろから彼に挿し込まれたとき、縄の食い込みと挿入の疼きが交差し、
「もう…お願い、だめ…壊れてしまう…」と叫んでいた。
彼は耳元で囁いた。
「壊れるのは、今夜だけでいい」──
第三章:縛られて、ようやく自由になれた
終わったあと、私は裸のまま、解かれた縄を抱いていた。
肌にはくっきりと縄跡が残り、心には静かな音が鳴っていた。
ベッドの隣で煙草を吸う彼に、私は問いかけた。
「どうして、こんなに優しいの?」
「縛るのは身体だけ。心までは縛らない。それが、ルールです」
私はそれを聞いたとき、涙が溢れた。
夫を裏切っているのに、なぜか赦された気がしたから。
愛している。夫のことは、愛している。
でも、私は「縛られることで、ほどける何か」が、確かに自分の中にあると知ってしまった。
その日から、月に一度の夜、私は「誰かの妻」ではなく、
一人の女として、縛られに行くようになった。
身体は傷つき、痣が残る。
でもその痣だけが、私が生きていると感じさせてくれるのだ。


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