新人 遠野夏生 38歳 AV DEBUT 某有名高級ブランド店で働く、魔性の色気を放つイイオンナ
【第1部】38歳バツイチと20歳年下男子──寂しさから始まった“教え子との再会セックス未満”
38歳になった春、私は東京の片隅で、一人用のソファと安いワインに囲まれながら離婚届のコピーを眺めていた。
名前は佐伯真奈。都内の中小企業で総務をやっている、ごく普通の会社員。三年前に離婚してから、誰にも頼らずに生きてきたつもりだった。
けれど、「一人で生きていける」という強がりと、「一人で寝るのが寂しい」という本音は、夜になるたび静かにぶつかり合った。
仕事で疲れた身体をシャワーでぬぐって、コンビニのサラダとワインをテーブルに置く。部屋の時計の音が、やけに大きく聞こえる夜だった。
そのとき、スマホが震えた。
――「真奈先生、久しぶり。覚えてますか?」
画面に出てきた名前に、思わず笑ってしまう。
「春斗」。
かつて私が家庭教師をしていた男の子。あの頃は高校受験に必死で、まだ声変わりの途中みたいな話し方をしていた。
メッセージの文面は丁寧なのに、文末の絵文字だけが昔のままで、少しだけ胸がきゅっとなった。
そこからやりとりは早かった。
彼は無事に大学に入り、今は二十歳。私の家から二駅離れたキャンパスに通っているという。
「先生、近くまで行くので、久しぶりにご飯でもどうですか?」
軽い気持ちで「いいよ」と返した。
あのとき、自分の中の何かがひっそりと目を覚ましたことに、まだ気づいていなかった。
週末の夜、新宿の小さなビストロ。
待ち合わせ場所に現れた春斗は、記憶の中の少年よりもずっと背が伸びていて、頬の線がシャープになっていた。
「先生、全然変わらないですね」
そう笑う目だけが昔のままで、少し安心したのと同時に、不意打ちのようなときめきを覚えた。
ワインを一杯、二杯。
離婚のこと、仕事の愚痴、一人暮らしの静けさ。
彼は驚くほど真面目に、そしてどこか大人びた表情で私の話を聞く。
「先生、頑張りすぎですよ。前から思ってましたけど」
――“先生”。
もう家庭教師でもないのに、その呼び方が耳の奥に残る。
ふと、指先がグラスの縁をなぞるのと同じリズムで、心の内側で何かがほどけていくのを感じた。
終電が近づき、店を出ると、夜風がワインの熱をやさしく撫でていった。
駅までの道で、彼が少しだけ歩幅をゆるめて、私の隣にぴたりと合わせてくる。
「先生、タクシーで帰ったほうがいいですよ。酔ってるし」
「平気だってば。これくらい、いつもだよ」
そう言いながら、足元がふらついた瞬間、彼の手が私の肘を支えた。
その手のひらの熱が、薄いコート越しに伝わってくる。
――あ、危ない。
頭ではそうつぶやきながら、心のどこかで、**「このまま倒れてしまえばいい」**とささやく声がした。
「……真奈さん」
名前で呼ばれたのは、初めてだった。
振り返ると、彼の視線が少しだけ揺れている。
「送ってもいいですか? 先生の家まで」
その問いかけはあまりに自然で、私はほとんど考えもせずに頷いていた。
あの夜、玄関の灯りの下で交わした一瞬の沈黙。
鍵を回す音がやけに大きく響き、ドアが閉まると、世界から街の音が消えた。
代わりに聞こえたのは、自分と彼の、少し早くなった呼吸だけ。
「……入ってく?」
自分の声が、少し掠れていることに気づきながら、私はそう言った。
それが、長く続く“秘密の関係”の始まりだった。
【第2部】「先生じゃなくて、女として見てる」──元教え子に抱きしめられた夜と、止まらない欲望
ワンルームのリビングに、二人分の足音が並ぶ。
「狭いでしょ?」と笑いながら照明をつけると、春斗はきょろきょろと部屋を見回し、
「先生、一人暮らしって、こんな感じなんですね」と少しだけ照れたような顔をした。
ワインの残りをグラスに注ぎ、ソファに腰を下ろす。
さっきまで外で飲んでいたくせに、二人きりになると、空気の密度が変わる。
テレビの電源は入れているのに、視線は画面に向かわない。
沈黙の間に、ソファのクッションが微かにきしむ音だけが挟まる。
「春斗、もう帰ったほうがいいよ。明日、バイトあるんじゃない?」
そう言いかけた瞬間、ふいに手首を取られた。
驚いて振り向くと、彼の瞳がまっすぐこちらを見ている。
あの頃の“生徒”の目じゃない。
迷いと、決意と、どうしようもない欲望が混ざった、一人の男の目だった。
「真奈さん」
名前を呼ぶ声が、さっきより低くて近い。
手首をつかむ指先に、かすかな震えが伝わってくる。
「俺、前から言おうと思ってました」
胸の奥がざわつく。
やめなきゃ。
この先の言葉は、聞いてはいけない。
頭の中で何度もブレーキを踏むのに、唇だけが勝手に動いてしまう。
「……なに?」
「俺、先生のこと、ずっと“先生”じゃなくて、女として見てたんです」
一瞬、時間が止まったように感じた。
心臓の鼓動だけが耳の奥で大きく鳴る。
笑ってごまかすこともできたはずなのに、喉の奥が熱くて声が出ない。
代わりに、頬を伝う熱があった。
それが涙なのか、ワインのせいなのか、自分でもわからない。
気づいたときには、彼の腕が私の身体を抱き寄せていた。
「待って」と口にしようとしても、言葉より先に、胸に当たる鼓動の早さが伝わってくる。
抱きしめられる感覚なんて、いつ以来だろう。
元夫の腕とは違う、まだ青年の匂いが混じった汗と柔軟剤の匂いが、鼻の奥をかすめる。
「ずっと、言えなかった。高校のときから……でも、先生、結婚してたし」
耳元で囁く声は、告白と懺悔のあいだを揺れている。
「離婚したって聞いて、もう一回会いたいって思って。今日、やっと言えた」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥の何かが音を立てて崩れた。
寂しさを埋めてくれる相手を、どこかでずっと探していた。
でも、まさか自分が教えていた少年が、こんなふうに欲望の矛先を向けてくるなんて想像もしなかった。
私は彼の胸に顔を預け、ゆっくりと目を閉じた。
「……バカだね、あんた」
そう言いながら、指先は彼のシャツの布地を掴んで離さない。
唇が触れ合ったのは、そのすぐあとだった。
最初は恐る恐る。
次第に、互いの呼吸を確かめるように深く。
部屋の照明が、二人の影を壁に重ねる。
どこからが“教師と生徒”ではなくなったのか、境目はもうわからない。
ただ、身体を寄せるたび、長くこじらせてきた渇きが、少しずつ水を吸って柔らかくなっていくのがわかる。
シャワーの音、濡れた髪、ソファに落ちるタオル。
細部の一つひとつが、現実を遠ざける儀式みたいだった。
ベッドに腰を下ろした瞬間、彼の手がそっと私の指をほどき、絡め取る。
「怖かったら、やめます」
そうつぶやく声に、本当の優しさと、本当の欲望が同居している。
私は首を横に振った。
「怖いけど……嫌じゃない」
その一言で、夜は決定的に色を変えた。
どちらからともなく身体を重ね、何度も途切れながらキスを交わす。
シーツの擦れる音、浅くなっていく息、一瞬だけ交わる視線。
互いの境界線が溶けていくたび、心のどこかで、**「もう戻れないな」**と静かに理解していた。
その夜、私たちは何度も名前を呼び合いながら、ただひたすら相手を確かめ合った。
敬語も、先生と生徒という立場も、とっくにどこかへ消えていた。
【第3部】結婚前の昼下がり、仕事を辞めた私のベッドで──“元教え子”との不器用すぎる終わらない関係
それから二年。
私は三十八歳になり、春斗は二十歳になった。
関係は、最初の夜だけで終わるどころか、毎週のように続いていった。
平日の夜、仕事で疲れた顔を鏡で確認してから、彼のメッセージを待つ。
「今日、会えますか?」
その一言で、身体の奥のスイッチが入る。
会わないほうがいい。
頭ではそうわかっているのに、指先は「いいよ」と打ち込んでしまう。
そして、季節が三回巡った頃。
新しい出会いがあった。
穏やかで、年相応に落ち着いた男性。
真面目すぎるくらい真面目で、「結婚を前提に」と真正面から言ってくれる人。
プロポーズを受ける夜、私は春斗とのメッセージを消すかどうか、スマホを握りしめたまましばらく動けなかった。
結局、消せなかった。
代わりに、「仕事、辞めて彼の家に入ることになった」とだけ連絡した。
返ってきたスタンプは、どこまでも明るい笑顔のウサギ。
そのあとに続いた短いメッセージ。
――「昼間、会える時間、増えるね」
胸の奥が、ズキンと痛んだ。
「ほんと、バカ」と、声に出さずにつぶやく。
バカなのは、スタンプを送ってきた彼なのか。
それとも、それを見て笑ってしまう私なのか。
結婚まであと数ヶ月。
有休消化に入った私は、平日の昼間にぽっかりと空いてしまった時間を持て余していた。
家事をしても、荷物を片づけても、時計の針は思うようには進まない。
そして、退屈と不安がちょうどいい濃度になった頃、スマホが震える。
――「今、近くまで来てる」
カーテン越しに差し込む光は、夜とは違う容赦のなさで部屋を照らす。
昼間に男の子を部屋に迎え入れる自分の姿が、他人事みたいに滑稽だ。
それでも玄関のドアを開けると、春斗は昔と同じ、少し照れくさそうな笑顔で立っている。
「真奈さん、なんか……人妻っぽくなりましたね」
「まだ籍入れてないから。ただの無職だよ」
二人で笑いながら靴を脱ぐ。
けれど、笑い声の底には、言葉にできない緊張が張りつめている。
昼間のベッドは、夜とは違う。
シーツの皺の一本一本まで、太陽の光が容赦なく暴いてくる。
それでも、彼の手が腰に回ると、頭の中の“理性”という名のスイッチは簡単に落ちた。
「真奈さん、結婚しても……会ってくれますか」
耳元で囁かれた問いは、あまりにも残酷で、あまりにも優しい。
「ばか。そんなこと、今聞かないでよ」
そう言いながら、私は彼の首に腕を回していた。
キスを重ねるたび、未来がぼやけていく。
私はこれから“誰かの妻”になる。
でも同時に、この青年にとってはきっとずっと“先生で、女で、秘密の相手”なのだと思う。
身体を重ねたあと、昼下がりの静けさが戻ってくる。
窓の外では、どこかの家の洗濯機の回る音がしている。
シーツの上で隣に寝転んだ春斗が、天井を見つめたままぽつりと言った。
「真奈さんが、他の男の人と結婚するの、やっぱり嫌です」
「今さら、何言ってるの」
そう言いながらも、胸の奥に刺さる棘の場所を、私ははっきりと感じていた。
「でも……真奈さんが幸せになるなら、ちゃんと祝いたい。だから、俺のことも時々、思い出してください」
「何それ。ずるいお願い」
言葉ではそう返しながら、喉の奥がきゅっと締めつけられる。
――この関係に、正しい終わり方なんてあるんだろうか。
春斗は「おばさんになって、人妻になって、ますます色っぽくなるんだろうな」と笑う。
その冗談めいた一言に、救われるような、突き放されるような気持ちになる。
私はベッドの上で、彼の手を指先だけそっと握り返した。
「じゃあ、ちゃんと見ててよ。私がどんなふうに“誰かの妻”になっていくのか」
それは、約束なのか、別れの予告なのか、自分でもよくわからなかった。
昼下がりの秘密が教えてくれたこと──“欲望”と“幸せ”は同じ場所にないかもしれない
38歳バツイチの会社員と、20歳の元教え子。
最初は、寂しさと偶然の再会が重なっただけだった。
けれど、一度身体を重ねてしまえば、**「先生」と「生徒」**というラベルは簡単に剥がれ落ち、
そこに残ったのは、ただの「女」と「男」としての、どうしようもない欲望だった。
その欲望は、決して誰かに誇れるものではない。
結婚を控えた今でさえ、昼間の密会は罪悪感を伴ってやってくる。
それでも、春斗の腕の中でだけ、私は妙に素直になれる。
「一人で大丈夫」と言い続けてきた強がりを、そっとベッドの脇に置いておける。
きっと、欲望と幸せは、同じ場所には存在しないのだと思う。
欲望はいつだって、はみ出したところ、許されない境界線のすぐ外側で光を放つ。
幸せは、少し退屈な、でも穏やかな生活の中に静かに沈んでいる。
私はこの先、誰かの妻として、食卓に並ぶ皿を数え、家の鍵を持ち、
「ただいま」と「おかえり」を繰り返していくのだろう。
そして、そのたびに、ワインのグラスの縁を指でなぞりながら、
昼下がりの光の中で見た春斗の横顔を、ふと思い出すのかもしれない。
それが、罰なのか、救いなのかはわからない。
ただひとつ言えるのは、
寂しさと欲望に身を預けたあの数年間が、
私の身体と心に確かに刻印を残したということだ。
「ねえ、先生」ではなく、
「真奈さん」と名前で呼ばれた夜。
あの瞬間から、私は誰かの“元妻”でも、“総務の佐伯さん”でもなく、
ただの「一人の女」として、誰かに欲望されていた。
それを覚えている限り、
たぶん私は、自分の人生を最後まで、自分のものとして引き受けていける気がする。
たとえ、それが少しばかり、
人に言えない昼下がりの秘密と結びついていたとしても。



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