人妻オフィスレディの絶対領域 貞淑妻を襲う、部長の言いなり社内羞恥―。 明里つむぎ
【第1部】会社では怖い上司、ホテルの部屋では「お願いします」と頭を下げる男
真奈美(まなみ)、22歳。
都内の小さなメーカーで事務兼営業アシスタントとして働く、ごく普通のOL──のふりをしている。
身長は170センチ。
「モデル体型だよね」「脚、ほんと長いよね」と、飲み会のたびに言われる。
そのたびに「いえいえ」と笑って受け流すけれど、心の奥ではいつも少しだけ距離を感じていた。
私の脚を褒める人は多いのに、
私という人間の中身を、ちゃんと見てくる人は少ない。
そんな会社で、営業部長のAさんは、典型的な“昭和の上司”だった。
会議では声が大きくて、部下のミスには容赦ない。
新人社員が震え上がるような叱り方をするときもあるのに、取引先には腰が低くて、社内では「外面(そとづら)だけいい」と陰で言われていた。
年齢は50代前半。
妻子持ちで、高校生の娘さんがいるらしい。
背は高くない。私のほうがヒールを履けば、軽く見下ろせるくらい。
そんなAさんと、どうして不倫関係になったのか。
きっかけは、残業後のタクシー相乗りだった。
年度末の追い込みで、終電を逃した夜。
タクシーの後部座席で、沈黙に耐えられなくなった私は、何気なくこう口にした。
「Aさんって、会社だと怖いけど……外では、けっこう優しいですよね」
ふざけ半分、距離を詰めるような軽さで言ったつもりだった。
ところが、返ってきた声は意外なほど静かだった。
「怖い、か……まあ、そうだよな。
家でも会社でも、ずっと“ちゃんとした大人”やってるとさ、
ふと、どこにも本当の自分を置けなくなるんだよ」
予想しなかった言葉に、私は横顔をまじまじと見つめてしまった。
この人にも、弱音なんてあるんだ。
その夜から、私とAさんの距離は少しずつ近づいていった。
LINEで仕事の愚痴を言い合い、たまにランチに行き、
「ここだけの話」を共有するうちに、
“既婚者の上司と若い部下”という線は、静かににじんでいった。
最初にホテルへ行ったのは、雨の日だった。
「送るよ」と言われ、そのままタクシーでホテル街に滑り込んだとき、
道徳心が一瞬、かすかに抵抗した。
でも、その声は、濡れたアスファルトのきらめきに溶けていった。
ベッドのある部屋で、ネクタイをゆるめたAさんは、ソファに腰を下ろしてから、
しばらく黙っていた。
そして、ぽつりと切り出した。
「……笑わないか?」
「え?」
「俺さ、会社では威張ってるし、家では“お父さん”やってるけど……
本当は、全然違うんだ。
真奈美には、ちゃんと話したい。引かれてもいいから」
そう言って、彼は初めて、
“上司”でも“夫”でもない、ただの一人の男としての顔を見せた。
【第2部】「その脚で命令して」──背徳の主従プレイが始まった夜
「俺、さ……本当は、Mなんだよ」
Aさんの口から出た言葉は、ひどく不器用で、でもどこか切実だった。
「家では絶対に言えない。
会社でも、もちろん言えない。
でも真奈美には、知られたい。
怖いけど……知ってほしい」
その告白を聞いたとき、私は一瞬だけ戸惑った。
M。
支配されたい男。
命令されたい男。
私は別にSでも女王様でもない。
むしろ、人に強く出るのは得意じゃないほうだ。
でも、Aさんの表情を見ていると──
いつも会議室で怒鳴っている“営業部長”の顔じゃなくて、
今にも壊れそうな、弱い人間の顔をしていて。
そのギャップが、妙に胸をざわつかせた。
「……じゃあさ」
ソファから立ち上がって、私はベッドの前に立った。
今日履いていたのは、細いヒールのパンプス。
黒いタイトスカートから伸びた脚が、白い肌を大胆にのぞかせている。
見上げてくるAさんの視線が、はっきりと私の脚で止まった。
「私に、どうされたいの?」
少しだけ声を低くして、挑発するように笑ってみる。
自分でも驚くくらい、その言葉は自然に口からこぼれた。
Aさんは、一瞬ためらったあと、
その大人の男らしからぬ、必死な目で見上げてきた。
「……真奈美の、その脚で命令されたい。
踏みつけられてもいいし、見下ろされたい。
“ここでは、あなたは私のものです”って……はっきり言われたい」
「会社では逆なのに?」
「そう。そこが、たまらなく…いい」
私は息を吸って、彼の前に一歩進み出た。
ヒールが床を鳴らす。
「じゃあ、まず──立って」
言うと、Aさんは素直に立ち上がる。
いつもなら私が資料を持って慌ててついていく背中が、
今は、私より少し下にある。
ヒールのぶんだけ、私は彼を見下ろす位置に立っていた。
「ネクタイ、外して。ここでは“部長”じゃないでしょ?」
彼の指が、言われたとおりにネクタイをほどき、上着を脱ぐ。
私は腕を組んで、それを静かに見ている。
「ここでは、立場が逆。
会社ではAさんが命令する側。
でも、この部屋では──私が決める」
自分で言いながら、胸の奥で何かが変わっていくのを感じた。
私の中には、こんな声が眠っていたんだ。
「……ひざ、ついて」
一瞬の間のあと、Aさんは、ためらいながらも床に片膝をつき、
やがて両膝を揃えて、私の前に跪いた。
50代の男が、22歳の私の前で膝をついている。
それだけの光景なのに、背筋をぞくりとする感覚が走る。
「どう、されたいの?」
視線だけで問いかけると、
彼は小さく息を飲んで、かすれた声で答えた。
「……命令されたい。
“いい子”って言われたい。
嫌われたくないから、何でもする」
「ふふ……かわいい」
その瞬間、私は知ってしまった。
Aさんの“変態的な願望”よりも、もっと奥にあるもの。
それは、
“誰かに本当の自分を見つけて、許してもらいたい”という
寂しさにも似た欲望だった。
ベッドの灯りを少し落とし、
私は彼の頭にそっと手を置いた。
「わかった。
ここでは、私が全部決める。
Aさんは、私の言うことだけ聞いてればいい」
そうささやくと、彼の肩から、目に見えない硬さがすっと抜けていった。
その夜、私たちは
“上司と部下”という枠を完全に外してしまった。
ひざまずいた彼と、見下ろす私。
絡まる視線と、近づく呼吸。
触れる手、引き寄せる腕。
その先にあるものは、詳しく語るまでもなく、
部屋の湿った空気がすべて物語っていた。
【第3部】「奥さんにも見せられない顔」を、私だけが知っているという罪
その日以来、私とAさんの関係は、
ただの不倫から、もっとねじれた形へと変わっていった。
会社では相変わらず、
会議室で資料の数字がズレていれば容赦なく指摘される。
「これ、どこで計算したの?やり直して」
周りの前では、ちゃんと“厳しい上司”を演じるAさん。
私は「すみません」と頭を下げながらも、
視線が一瞬かすめ合うだけで、その裏側にある秘密を思い出してしまう。
──昨日は、その口で「真奈美様」と呼んでたくせに。
そんな言葉が喉元まで込み上げてきて、
思わず笑いそうになることすらあった。
仕事終わりにホテルへ向かう日、
私たちはあえて、会社の近くの居酒屋で同僚たちと飲んだりもした。
「部長、飲みすぎですよ」「Aさん、顔赤いですよ?」
周囲が笑いながらつつく中、
私だけが知っている。
この人は、酔っているんじゃない。
これから“逆転する時間”を想像して、
ひそかに高ぶっているのだということを。
ホテルの部屋に着くと、彼はいつもより少し早口になる。
「今日も、お願いしていい?」
私の目を、子どもみたいな不安と期待の入り混じった色で見上げて。
私は、そのたびにヒールを静かに脱ぐ。
背丈は少しだけ縮むけれど、
関係の“高さ”は変わらない。
「どうしてほしいか、ちゃんと言って」
そう促すと、Aさんは戸惑いながらも、自分の望みを言葉にする。
それはときに滑稽で、ときに幼くて、ときに危うくて。
でも、私はその一つひとつを
“変態”と切り捨てることができなかった。
むしろ、
誰か一人からでも「それでいい」と認めてほしいという
叫びのように聞こえたから。
「こんなの、奥さんには絶対見せられないんだよな……」
ぽつりとこぼした言葉が、なぜか私の胸に刺さった。
「じゃあ、私だけの顔だね」
思わず、そう答えていた。
その瞬間、Aさんの目が、
恥ずかしさと救われたような色で揺れた。
彼が膝をついて私を見上げるときも、
ベッドの上で抱き合うときも、
私の名前をかすれた声で呼ぶときも──
この顔は、きっと奥さんも、会社の誰も知らない。
罪悪感がないわけじゃない。
「不倫なんて」と冷静な自分がささやく夜もある。
でも同時に、
彼が「本当の自分」を解放できる場所が、
この世界のどこかにひとつくらいあってもいいんじゃないか、
その役割を、自分以外の誰かに渡したくない──
そんな、矛盾した独占欲が、
私の内側で静かに育っていくのを感じていた。
ホテルを出て、別々の方向へ歩いていく帰り道。
私は高いヒールを履き直し、
いつもの“普通のOL”の顔に戻る。
でも、信号待ちでふとガラスに映った自分を見たとき、
前より少しだけ、
自分の脚の長さを意識して立っていることに気づいた。
私の脚は、ただ褒められるためだけのものじゃない。
誰か一人の、本当の欲望を引き受けるための“スイッチ”にもなり得る。
そう思ったら、
背徳と快感が溶け合ったような、不思議な熱が胸に広がった。
まとめ──「女王様」になりたかったわけじゃない。ただ、誰かの「本当」を受け止めてみたかった
この関係を、正しいなんて言うつもりはない。
不倫だし、年齢差もあるし、
誰かを傷つけている現実から目をそらしている部分もある。
でも一方で、
Aさんが“営業部長”でも“夫”でもない、
ただの一人の男としての弱さや願望をさらけ出し、
それを受け止める役割を、
22歳の私が引き受けているという事実も、否定できない。
私はもともとSでも女王様でもなかった。
ただ、長い脚を褒められ、外見だけを消費されることに
どこかで飽き飽きしていた。
そこに現れたのが、
私の脚を“道具”としてではなく、
自分の本性を引き出してくれる“鍵”として見てくれた男だったのかもしれない。
「真奈美には、本当の自分を見せられる」
そう言って、膝をつき、頭を下げる50代の男。
その姿は、どこか滑稽で、どこか切なくて、
そしてなぜか、少し愛おしい。
もしこの関係がいつか終わる日が来たとしても、
私の中にはきっと残るだろう。
──あの部屋でだけ見せてくれた、
奥さんにも、部下にも、誰にも見せられない
「本当の顔」を知っているのは、自分だけだという感覚。
それは、罪でもあり、
ひそかな誇りでもある。
そして私は今日も、
会社の蛍光灯の下で、
何も知らないふりをして書類をめくりながら、
心のどこかでそっとつぶやく。
「ここでは部長、
あの部屋では、私の“いい子”。
その秘密が、たまらないんだよ」



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