終電を逃したのは、ほんの少し飲みすぎた夜だった。
学生時代の友人と居酒屋で旧交を温め、気がつけば午前0時を回っていた。
笑い合い、グラスを重ねた帰り道。
改札の時計を見て、私はすぐに諦めた。
私鉄の最終はとうに過ぎている。
けれど焦りはなかった。
この駅から出る夜行バスの存在を、私は知っていたから。
薄暗いロータリーの隅、ひっそりと佇むバス乗り場は、秘密の抜け道のようだった。
誰もが並ぶタクシーの列を横目に、私はバスへと歩いた。
深夜バスは今日も、大型の車体を静かに光らせていた。
少しひんやりとした車内に入ると、すでに数人が毛布をかぶってうつむいている。
私はトイレに近い二人掛けの座席を選んだ。
足を組み、薄手のスカートの皺を直しながら毛布をかける。
ほどよく冷えた車内。アルコールがまだ残る身体。
私は小さく息を吐き、目を閉じた。
寝よう。
何も考えず、バスが終点に着くまで。
…しかし、どこかのタイミングで、私は“気配”に気づいた。
眠りの薄皮を破って、誰かが隣に座る気配。
それが男だとわかったのは、わずかに触れた太ももの温度だった。
「……」
言葉はなかった。
けれど、気づいてしまった瞬間、緊張が身体に走った。
毛布越しに、指先が滑る。
最初は太もも。
その次に、膝と膝の間。
布の中に忍び込む温度が、次第に私の呼吸を乱していく。
“やめて…”
心の中でそう叫んでいた。
でも、声が出せなかった。
バスは静かだ。
他の乗客は眠っている。
この密室で、私だけが、誰にも知られずに“なにか”をされている。
羞恥と恐怖で、身体が凍りつく。
でも、それと同時に、なぜか――
太ももの内側が、じわじわと熱くなっていた。
スカートの中に手が入り込む。
下着の上から、中心にふれられた瞬間、
私は喉の奥で声を噛み殺した。
「……濡れてるね」
男の低い声が耳元に囁く。
なぜ、そんなことが言えるの?
けれど、その指は確かに私の“湿り”を見抜いていた。
“違う…私は…嫌なのに…”
でも、身体は嘘をつけなかった。
指先が、下着をずらして奥へと触れてくる。
浅く。
深く。
そして、ゆっくりと膣の入り口をなぞるように。
私は、指を受け入れていた。
まるで、自分が“そうされること”を望んでいたかのように。
「……んっ」
声を堪えた瞬間、腰が浮いた。
毛布の下で、指はさらに奥へと入り込み、
そのまま、膣壁の感触を確かめるように動いていく。
息が荒くなる。
心拍が上がり、熱が広がっていく。
羞恥は快楽に変わりはじめていた。
“こんな場所で、誰かに触れられている”
その背徳感が、なぜか快感を加速させる。
「……こんなに締め付けて」
彼の声がまた耳を舐める。
その一言が、私の理性を砕いていった。
指が、奥のスポットを探り当てた瞬間、
私は全身を小さく震わせた。
「……っん、あ…」
声が出た。
小さく、かすかに。
でも、それは私の“本音”だった。
――感じてしまっている。
自分が、明確に、反応している。
指が濡れる音が、車内に響いているような錯覚さえする。
彼の指は巧みに動き、私の中をかき混ぜていく。
内壁が濡れて、ぬるりと滑る感触。
それに反応して膣がぴくぴくと収縮する。
「もっと欲しい?」
私は、答えなかった。
でも、腰が彼の指を離したくないと訴えていた。
やがて、彼は指を抜き、私の身体をそっと引き寄せた。
座席の幅が足りないはずなのに、
私は彼の膝の上に収まっていった。
脚が自然に開いていく。
毛布の中で、下着は片足だけに引っ掛かったまま、
膣が空気に触れて震えていた。
彼の硬くなったものが、私の奥にあてがわれる。
「……入れるよ」
その言葉に、私はなぜか頷いてしまった。
ゆっくりと、熱いものが奥へと差し込まれる。
ぬるりと、ぴたりと、膣が彼を包み込む。
深く、深く。
私の奥に異物が収まるたび、
羞恥は快楽に飲み込まれていった。
「……っ…ぁ、あん…っ」
吐息がこぼれるたび、
車体の揺れとともに私の身体が跳ねる。
脚は彼の腰に回り、
指先はシートを握りしめ、
全身が――一度も見たことのない顔で、悦びに震えていた。
こんなはずじゃなかった。
でも今の私は、明らかに“欲して”いた。
彼のものが奥に届くたび、
声にならない喘ぎが喉を焼いた。
腰をぶつけ合いながら、私は何度も絶頂を迎え、
目の前の闇が白く霞んでいった。
静まり返ったバスの中。
すべてが終わった後も、
私は彼の腕の中で、静かに震えていた。
――屈辱だった。
――けれど、確かに悦びでもあった。
私は、こんなにも、自分が“女”だったことを知らなかった。
そしてきっと、明日もこのバスに――
私は、また、乗ってしまうのだろう。


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