「私の髪に触れたのは、彼の指じゃなく、欲望だった」
月に一度、夫の予定と息子の部活のスケジュールが奇跡的に重ならない金曜の午後。
それが、私にとって唯一「自分だけの時間」だった。
美容室の予約を入れるときは、決まってその日。
「こんにちは、お待ちしてました」
彼は変わらず、爽やかに微笑んだ。
翔太くん。26歳。
私の髪を3年ほど任せているスタイリスト。
年齢も、立場も、踏み越えてはいけない境界にいる彼。
でも、私の中で何かが変わり始めたのは、彼の視線が、ほんの一瞬だけ――
鏡越しに私を、”女”として見た気がした、あの日からだった。
「今日は、どんなふうにしましょうか」
彼の問いかけに、私は曖昧に微笑んだ。
「軽く整えるくらいで。あまり冒険は……」
言いかけて、口を閉じた。
あまり冒険は、できない。
……でも、したいと思っている自分もいた。
彼の指が私の髪をすくう。
その瞬間、頭皮を伝う感覚が、なぜか背中までゾクゾクと這い上がった。
無防備な首筋にそっと触れる指が、まるで「許しを請うように」優しい。
クロスの下で、膝がふるえていた。
(なぜ、こんなに感じやすくなっているの……?)
羞恥心が、ほんのりと快楽へ変わりはじめているのが自分でもわかる。
髪を切る間、ふたりの会話は他愛のないものだった。
でも、たまに鏡越しに視線が重なると、私の喉がすうっと乾いた。
彼の視線はどこまでも真っ直ぐで、汚れがない。
だからこそ、余計に、私はその目に“汚されたい”とさえ思ってしまった。
「このあと……お時間、大丈夫ですか?」
乾かす手を止め、静かに告げられたその言葉に、私は一瞬で喉が締まった。
「少しなら……」
そのとき、もう身体は彼に向かって開かれていたのだと思う。
羞恥や理性は、ゆっくりと脱げていくブラウスのボタンのように、一つずつ緩められていった。
2階のスタッフルームに通されたとき、私の心臓は美容室のBGMよりも大きく鳴っていた。
「……触れてもいいですか」
彼の問いは、まるで礼儀のように丁寧だった。
でもその指先は、すでに私の顎をそっと上げていた。
唇が重なると同時に、胸の奥で何かが溶けた。
彼は私の身体を、驚くほど丁寧に、でも確実に脱がせていった。
レースの下着を指で撫でられたとき、私は息を詰めた。
「こんなに……濡れてるんですね」
唇を耳元に落としながら、彼が囁いた。
声が低くて震えていた。
その震えに、私の奥の熱が応えた。
私は、鏡の前に立たされた。
彼は背後から、私の乳房を掌で包み、乳首を親指でゆっくりと転がした。
鏡に映るのは、48歳の、人妻の私。
でも、その顔は明らかに――
「抱かれた女」の顔をしていた。
スカートの奥へ差し込まれた指が、ゆっくりと熱をかき出していく。
「あ……んっ……」
唇を噛んでも声は漏れる。
恥ずかしいのに、止まらない。
むしろ、見せたくなっていた。
自分の顔が、どれだけ乱れていくのかを。
「入れますね……」
彼のものが、ゆっくりと、私の奥へ入ってきたとき――
身体の芯が「裂けるような快楽」に震えた。
何年ぶりだろう。
「異物」ではなく、「命」を迎え入れる感覚。
私は今、まぎれもなく、女だ。
リズムが深くなり、奥を擦られるたび、鏡の中で目が蕩けていく。
「翔太くん……もっと、奥……いいの……っ」
私は声を殺さなかった。
鏡に映る自分を、彼と一緒に貪りたかった。
自分を“再び生かしてくれる快楽”に、溺れたかった。
彼が絶頂の波を迎える直前、私も脚を突っ張り、背中を反らせ、果てた。
鏡越しに、ぼんやりと立つ自分の裸の姿が見えた。
あんなに淫らで、あんなに美しい自分を、私は知らなかった。
「また、来てもいいですか……?」
美容室を出る前、彼がそう言ったとき、私は微笑んだ。
「ええ……でも、ちゃんと予約入れてね。髪、また伸びるから」
本当は、私の欲望の奥が、もう彼の指を恋しがっていた。
次の月、また鏡の前に座ったとき――
私はどんな顔で彼を見つめ返すのだろう。
自分の中の「女」が、もう眠らせてもらえないことだけは、はっきりとわかっていた。



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