最愛の娘の彼氏と、大痙攣エビ反り性交に溺れた私。 水野優香
主演・水野優香が、母であり女であるという矛盾を圧倒的な存在感で演じる。
彼女の視線、微かな息遣い、触れそうで触れない距離感──そのすべてが背徳と切なさを溶かし合わせ、観る者の心を離さない。
成熟した女性の美しさと、情熱に揺れる心のリアリズムが胸に迫る。
「最愛の娘の彼氏と──」シリーズの中でも、最も人間の深層を描いた一作。
【第1部】雨上がりの午後、閉じていた体温が息を吹き返す──鎌倉・美沙子43歳
雨が上がると、部屋の中に潮の匂いが流れ込んできた。
鎌倉の海は近い。湿った風がカーテンを膨らませ、白い布が私の太腿に触れる。
あの感触だけで、胸の奥に眠っていた何かがかすかに目を覚ますのを感じた。
莉子が生まれて十七年。私はずっと母親でいることに集中してきた。
朝早くに弁当を作り、夜は残業、帰れば洗濯物。
“母”という役割を生きるうちに、“女”の部分はどこかに置き忘れたつもりだった。
それなのに──近頃、鏡の前に立つたび、ふと視線が自分の鎖骨をなぞる。
細く残る骨の線に、若い頃の私の面影がまだ少し残っている気がして、怖くもあり、嬉しくもあった。
その日の午後、莉子が彼を連れてくると言った。
「大学のゼミで一緒になった人。優しいの」
そう言う声の明るさに、私は安堵と、ほんの少しの寂しさを覚えた。
玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けた瞬間、潮の風が彼の髪を揺らした。
悠人──そう名乗った青年は、私よりも二十歳以上も若いのに、目の奥に不思議な静けさを湛えていた。
私が「いらっしゃい」と言うと、彼は少し照れくさそうに笑った。
その笑みが、心の奥に小さな波紋を落とす。
たったそれだけのことが、どうしてこんなに胸をざわつかせるのだろう。
「お母さんって若いですね」
彼がそう言った瞬間、私の中で時間がわずかに巻き戻った。
その言葉に頬が熱くなり、息の仕方を忘れる。
莉子が横で笑うのが聞こえたけれど、私の意識は遠のいていた。
雨上がりの光がテーブルの上のコップに反射し、ゆらゆらと部屋の壁を照らす。
ガラス越しの光が、悠人の横顔に落ちる。
私の心臓は、何かを思い出そうとするみたいに、静かに早鐘を打っていた。
【第2部】触れてはいけない指先──夜の静寂がほどくもの
その夜、私はなかなか眠れなかった。
リビングの時計の針が、秒を刻むたびに胸の鼓動と重なる。
莉子と悠人が帰ったあとの家は、妙に広く感じられた。
食卓の端に、彼の使ったグラスが残っている。
水滴の跡が、まだ冷たさを宿していた。
指先でその跡をなぞぐうちに、自分でも気づかぬうちに、喉が鳴った。
「なにをしてるの、私……」
独り言の声が、やけに大きく響いた。
けれど止まらない。
理性の奥底で、何かがゆっくりとほどけていく感覚があった。
数日後、莉子が合宿で家を空けることになった。
その準備をしているとき、彼女が何気なく言った。
「悠人、バイトの帰りに荷物だけ置いてくれるって」
心臓が、一瞬止まったように感じた。
私の中の時間が、奇妙な期待と罪悪のあいだで歪む。
夜九時を過ぎたころ、インターホンが鳴る。
玄関のドアを開けると、湿った夜風と一緒に悠人の姿があった。
「莉子の荷物、これです。すぐ帰りますね」
そう言う彼の声は、静かで礼儀正しかった。
けれどその声の下に、微かに何かが揺れていた──それが何かを理解した瞬間、私は息を吸い損ねた。
「ありがとう。ちょっと、お茶でも飲んでいく?」
その言葉が唇から漏れたとき、私はすでに自分の中の“母親”という輪郭を見失っていた。
彼は一瞬迷ったように視線を落とし、やがてうなずいた。
それだけで、部屋の空気が変わった。
テーブル越しの距離が、普段より近かった。
彼の腕の筋肉が、シャツの下で静かに動く。
ライトの光が彼の喉元に影をつくり、それがゆっくり上下するたびに、私の呼吸も乱れる。
「お母さんって、本当に綺麗ですね」
その言葉が、囁きではなく、告白のように聞こえた。
私の手が、無意識のうちにコップを落とした。
ガラスが床に転がり、乾いた音を立てる。
拾おうとした瞬間、指先が彼の指先と触れた。
たったそれだけの接触で、身体の奥に電流が走る。
その痺れが、長いあいだ閉じ込めてきた何かを呼び覚ます。
「……だめよ」
そう言ったはずなのに、声は震え、拒絶の形を失っていた。
目を逸らそうとしても、彼の瞳がそれを許さない。
その瞳の中に、母親でもなく、誰かの恋人でもない“女”としての私が映っていた。
外では、遠くで雷の音がした。
窓ガラスに光が走り、瞬間的に彼の横顔を照らす。
その一瞬の閃光の中で、私の理性が、音を立てて崩れた。
【第3部】夜のしじまに溶けて──愛と罪のあわいで
雨が降り出したのは、いつだっただろう。
風の音が遠くから近づき、窓の隙間をすり抜けて部屋の空気を冷やしていく。
それなのに、私は暑かった。肌の下で、血の流れが音を立てている。
悠人の瞳が私を捉えたまま、時間が止まる。
見つめ合うだけで、息が喉に引っかかり、痛いほど胸が膨らんだ。
それはもう“欲望”と呼ぶにはあまりに静かで、悲しい光を帯びていた。
私たちは互いの孤独の形を確かめるように、ただ近づいていった。
指先が頬に触れた。
その瞬間、十七年間の記憶──母としての努力、失われた愛、凍りついていた夜の体温──すべてが溶け出した気がした。
世界が反転する。
誰かに許しを請う暇もなく、私は“美沙子”という名だけを残して、闇に落ちていった。
気づけば、部屋の灯りは落ちていた。
雨の音だけが残り、肌を撫でる空気が妙にやわらかい。
彼の呼吸が静かに混ざり合い、私の耳の奥で波のように広がる。
「ごめんなさい……」
そう言いながら、どこかで違う意味を感じていた。
謝っているのは彼にではない。
十七年間、母という鎧の中に閉じ込めてきた“女”に向かっての謝罪だった。
夜が明ける頃、私は彼の肩にもたれながら、自分の中に新しい空洞ができたのを感じていた。
失われたものではなく、これから何かが始まる余地のような、静かな余白。
【まとめ】禁じられた夜の果てに見つけたもの──母であり、女であるという矛盾の美しさ
あの夜のことを、私は誰にも話していない。
後悔と呼ぶには、あまりに優しい記憶だからだ。
彼が去ったあと、鏡の中の私は少しだけ柔らかく笑っていた。
頬の線が、若い頃の自分と重なる。
“愛”とは、正しさの形をして現れるとは限らない。
時にそれは、罪の衣をまとって私たちを揺さぶる。
けれどその揺らぎの中にこそ、生きている実感がある。
私は今も、母であり、女である。
その矛盾を抱きしめながら、静かに歩いていく。
あの夜の雨の匂いだけが、まだ胸の奥でぬくもりを保っている。




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