第一章:雪解けの札幌、胸元に降りた視線の温度
冷え込んだ札幌の夜、アスファルトに残る雪解け水が黒く光っていた。
三月半ば、気温はようやく氷点下を抜けたものの、夜風はまだ肌を刺す。私はその日、夫の実家で行われた義父の誕生日会に出席していた。
キッチンでグラスを洗っていると、背後からふいに近づく気配があった。
振り返ると、そこにいたのは航くん──夫の弟で、19歳。東京の大学に進学していたが、春休みで札幌に戻ってきていた。
「手伝いますよ、そんなにひとりでやらなくても」
高校生だった頃よりも、背が伸び、体格も大人びている。
けれど、その声の調子にはどこか少年のままの素直さが混じっていた。
「ありがとう。でも大丈夫よ、慣れてるから」
そう返した私の頬に、照明の反射が暖かく触れる。
ふと、視線が気になった。
彼の目が、私の右手の動きから、肘、肩、そして首元へとゆっくりと、躊躇いながらも確かに這い上がってくるのがわかる。
──見られている。しかも、意識的に。
薄手のニットの胸元。ブラのレースが浮き上がるほどの距離で、彼は目を逸らさなかった。
私はなにげなくストールを掴み、胸元を覆い隠すように結び直す。
その瞬間、航くんが小さく笑った。
「……旦那さん、幸せ者ですね」
「え?」
「こんなに綺麗な人が奥さんなんて」
お酒が入っているわけでもない。真顔だった。
一瞬、心臓が早鐘を打った。
年下の義弟に、こんなふうに真っ直ぐ見られて──どうして、こんなにも胸の奥が疼くのだろう。
「駅まで送りますよ」
そう彼が申し出たのは、ほんの数分後だった。夫は酔って寝ていた。
義母も義父も二階に上がってしまい、リビングには私たちだけが残っていた。
断る理由が見つからなかった。
本音を言えば、私はもうその時点で、自分でも気づかないふりをしていた。
自分の中で、なにかが熱を持ちはじめていたことを。
第二章:キッチンの壁にもたれて、抗えない身体
車内は静かだった。私が運転席、航くんが助手席。
暖房の風がゆるやかに吹いているのに、首筋には薄く汗が浮かんでいた。
「東京の生活、どう?」
私が口を開いたのは、沈黙を隠すためだった。
「慣れました。けど、たまに思い出すんですよね。こっちで見た景色とか、匂いとか……」
「匂い?」
「はい。例えば……〇〇さんの香水とか」
心臓が跳ねた。
視線を感じる。運転中の横顔に、まっすぐ注がれる若い男の目。
──なぜ、そんなに真剣に私を見てくるの?
家の前に着いても、エンジンを切る手が震えた。
ドアに手をかける直前、航くんがぽつりと言った。
「トイレ……借りてもいいですか?」
「……ええ、どうぞ」
玄関のドアを開けた瞬間、静寂が落ちてきた。
マンションの中は温かく、外気との温度差に頬が火照る。
彼が洗面所に向かう後ろ姿を見ている自分がいた。
背中から腰へ、スリムなジーンズ越しに伸びる脚。19歳の若さ。
なのに、なぜ私は、こんなにも喉が渇いている?
キッチンで水を飲もうとした瞬間、背後から足音。
そして、次の瞬間には、彼の手が私の手首をそっと掴んでいた。
「……〇〇さん、お願いです。少しだけ……」
言葉は途中で途切れた。
もう、唇が私のものに重なっていたから。
若さゆえの不器用なキス。けれど、そのぶんだけ情熱が熱い。
私の背中に腕が回り、舌が優しく探るように口内に入ってくる。
「ダメ……よ」
「ずっと……したかったんです」
エプロンのリボンが解かれ、セーターの裾が上がっていく。
キャミソールの中で乳房があらわになると、彼の唇がそこに落ちた。
舌先が尖って、固くなり始めた先端を探り当てると、私は耐えきれず小さく呻いた。
「やだ……航くん、そんな……」
「〇〇さんが、綺麗すぎて……もう、我慢できない……」
下腹部へ降りていく手。ストッキングの縁を指先でなぞりながら、ショーツの中へ忍び込む。
人差し指が湿り気を帯びた秘部に触れたとき、私の脚が勝手に震えた。
「もう……濡れてますね」
その囁きが、首筋に落ちた吐息が、私を完全に壊した。
第三章:朝焼けに包まれた、女の余韻
ソファの上で、私は脚を開いて彼を受け入れた。
初めてのようにぎこちない動き。でも、奥へ、奥へと突き上げてくるたびに、喉の奥から声が漏れる。
「そこ……だめ、でも……いい……」
「こんなに感じてくれて……嬉しい……」
彼は私を抱きしめながら、ゆっくり、そして力強く動いた。
若い身体の熱と汗、混ざり合う音、ぬるんだ感覚。
全身がとろけるような快楽の中、私は自分の存在が輪郭を取り戻していくのを感じた。
そして、絶頂。
声を殺すことができなかった。
押し寄せる波に、溺れながら、私は──女として「生き返って」いた。
***
朝。目覚めたとき、彼の腕が私の腰に回っていた。
寝息は穏やかで、あどけない少年のようだった。
私はそっと立ち上がり、カーテンを開ける。
春の陽が、札幌の街をやわらかく照らしていた。
この夜は、過ちだったかもしれない。
でも私は、あのとき、確かに“わたし”に戻っていた。
母でも妻でもなく、ただの“女”として。
失っていたものを、彼が思い出させてくれたのだ。
──罪か、赦しか。
それを判断するのは、今の私ではない。
ただ、ひとつだけ確かなのは、
あの夜の熱と記憶が、私を再び呼吸させてくれたということ。
そして、もう私は、
二度と、自分のことを“終わった女”だなんて言わない。



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