第一章:その部屋の静寂に、わたしは足を開いた
2023年の春。
都内港区、再開発が進む高輪ゲートウェイの再開発オフィス街。
ガラス張りのエントランスに足を踏み入れるたび、私はどこか非現実の世界に迷い込んだような気がしていた。
その企業──某外資系メーカーは、洗練されたデザインと静謐な空気が漂うオフィスだった。
自動昇降デスク、業務用のカフェマシン、まるでアートのように配置された観葉植物。
日によっては半数がリモート勤務になり、オフィスの中はいつもどこか空虚で、言葉よりもキーボードの打鍵音のほうがよく響いていた。
私は、そこに派遣社員として半年だけ勤めていた。
入力業務と資料作成が主な仕事。どんなに静かでも、誰も私を疎外しなかった。
それだけで、「ここにいたい」と思ってしまった。
そんな矢先だった。
契約満了の知らせは、突然訪れた。
「来月末で……一旦契約終了になるかもしれない」
派遣会社からそう伝えてきたのは、担当の長谷部さん(仮名・35歳)。
黒髪を後ろに撫で付けた清潔な髪型、ネイビーのスーツに薄香のような石鹸の匂い。
LINEの通知音が鳴ったのは、その夜。
「いま時間ある?
話したいことがあって。よかったら、少し飲みに行かない?」
その文面に、嫌な予感はあった。
だけどそれ以上に──言いようのない“誘い水”のようななにかが、私の内側でざわついた。
わたしは、返信を打った。
「……行きます」
「希望を叶えてあげられるかもしれない」
その言葉を言われたのは、品川駅からほど近い、ホテルライクなレジデンスのロビーだった。
黒い革張りのソファに隣り合って腰掛ける私に、長谷部さんはグラスを差し出してくる。
「ここ、うちの会社が使ってるサービスアパートメント。住んでるわけじゃないけど、会議用にとってある部屋なんだ」
照明は柔らかく、どこか人工的に静かだった。
エアコンの低い唸り、氷がグラスの中で溶けていく音。
私はグラスを受け取りながら、ふと自分の脚元に意識を落とした。
黒いタイツを直履きしていた。パンプスを脱いだ足が、薄く汗ばんでいるのを感じる。
「……ごめん。変なこと言うかもしれないけど」
そう言って、彼はソファからすこし身を乗り出した。
「さっきから、ずっと気になってて。……その足元。ストッキング越しのラインが、すごく綺麗で」
一瞬、呼吸が止まる。
冗談ではない。彼は本気で、私のストッキング姿に見惚れていた。
「ちょっとだけ、見せてもらってもいい……?」
その一言が、音もなく私の中に落ちた。
心がざわつき、理性が警鐘を鳴らしていた。
けれど──私は何も言えなかった。
むしろ、どこかでそれを望んでいたのかもしれない。
私は黙ってベッドの上に移動し、体育座りのように膝を抱える姿勢をとった。
直履きのストッキングが、照明を受けてぴったりと肌に張り付き、足裏の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
「……綺麗だ。ごめん、記録させて」
カメラのシャッター音が、静寂のなかで何度も鳴り響いた。
足裏を、脚のカーブを、そして──透けて見える奥の秘部までも。
カメラ越しの彼の視線が、私のそこを舐めるように這っていた。
羞恥心が熱に変わっていくのを感じた。
まるで、自分の身体の奥から引きずり出されるように。
彼の指が、そっとストッキングの縫い目を辿る。
「……脱がせて、いい?」
その問いに、私はもう、うなずくことしかできなかった。
第二章:逆さまの熱、喉奥の快楽
「……動かないで。僕が上になると、たぶんキミ、息できなくなるから」
ストッキングを脱がされた脚が、冷えたベッドの上に晒される。
少し濡れた足先をそっと閉じようとした私に、長谷部さんは声を潜めてそう言った。
「……じゃあ、逆にしてみようか」
彼が持ち上げたのは、私の太ももだった。
するりと背中側に折り畳まれるように、私は仰向けのまま脚を開き、膝を胸に引き寄せた姿勢になる。
そのまま、彼の肩に乗せられた。
──まんぐり返しのシックスナイン。
私は下、彼は上。けれど、私の頭の真上には彼の腰が位置している。
顔を少し持ち上げるだけで、硬く張りつめた彼のものが、真っすぐ目の前にあった。
「……咥えて」
言われるまでもなく、私は自然と口を開いていた。
最初は唇だけ、次第に、舌先で裏筋をなぞるように吸い上げる。
そのとき──彼の舌が、私の奥に触れた。
「……っ」
逆さまの姿勢のまま、彼の唇が花びらの外縁を吸い上げ、舌が、真ん中の小さな起伏を捉える。
全身が震えた。重力の感覚が狂っていく。
喉に入ってくる彼の熱、それを感じながら、私の芯もまた奥からじわりと熱を帯びていく。
「……いいよ。もう少し深く」
彼の声が、お腹の奥に響いた。
言われた通り、私は首をすこし傾け、彼のものをさらに深く咥える。
上顎に当たる張り、舌の裏に感じる硬さ、喉奥に触れる寸前の危うさ。
そして──ぴくり、と。
彼のものが、わずかに震えた。
「出そう……」
その言葉とほぼ同時だった。
喉の奥に、熱が走る。
一瞬、空気が途切れ、私は反射的に喉を締めていた。
まるで咥え込んだまま、脈動を体の中で受け止めているようだった。
彼の舌は止まらなかった。
まるで、私が“咥え続ける”ことで、呼応するように、より深く、より滑らかに、私の中を舐め上げていく。
濡れていく音が、静まり返った部屋にやけに鮮明に響く。
呼吸は重なり、唇と舌のリズムが、ふたりの鼓動を結びつけていく。
喉の奥を伝うその“命の鼓動”が、まだゆっくりと脈を打っていた。
私は咥えたまま、唇だけをわずかに閉じて、そこに意識を集中させた。
彼の裏筋が震えるたび、私の上唇がピクリと震える。
何も話さない。
ただ、咥えたまま、受け止める。
そうすることでしか保てないバランスがある。
そうすることでしか、私はここにいられないと感じていた。
「すごい……全部、喉で感じてるの?」
彼の声が震えていた。
その声に、私は答えなかった。
答える代わりに、ほんの少しだけ、唇をすぼめて吸い上げる。
再び、脈動。
今度は喉に落ちる前に、舌でそれを包み込んだ。
そして彼の舌は、私の奥深くで震えるように動いていた。
腰を少し浮かせると、唇が、彼のそれを深く深く迎え入れていく。
もう、どこが上でどこが下なのかも分からない。
世界が、彼の体温と、私の呼吸で満たされていく──
第三章:沈黙の選択、口唇に秘めた秘密
「……ごめん、すごく綺麗だった。さっきの全部」
そう言って、長谷部さんはノートPCの画面をこちらに向けた。
そこには、さっき撮影されたままの映像が再生されていた。
私の顔が、彼のものを咥えたまま、無言で伏せられている。
唇が吸いつくように寄り添い、わずかに上唇だけが、彼の脈動に合わせて小刻みに震えていた。
音もなく、ただ息づかいと、時折響くぬるい水音がそこにあるだけ。
「……キミの唇、反応してたよ。ピクリ、ピクリって……わかる?」
画面の中の私は、何も語らず、ただ受け止めることにすべてを費やしていた。
それは、言葉以上に雄弁だった。
黙って咥えることでしか伝えられなかった願い、震える口唇に秘めた、沈黙のままの赦し。
その夜、彼はそれ以上を求めなかった。
挿入も、声を強いることもなかった。
ただ、私が咥えて、彼が舐める。
その繰り返しのなかで、互いの奥底にある何かを、そっと預け合うように。
私が疲れて目を閉じているとき、彼の舌は足裏や胸を、まるで記憶に刻みつけるように優しく舐めた。
そして、オナニーで高まりきった瞬間、再びシックスナインの体勢で私の上に覆いかぶさり、私の奥を舐めながら、口の中に何度も熱を注いできた。
私は咥えながら、ただ呼吸を整え、静かに受け入れた。
不思議と、怖さはなかった。
支配でもなく、強制でもなく──ただそこにある“関係”だった。
誰にも理解されなくていい。
誰にも知られたくない。
でも、あのときの私には、どうしても必要だった関係。
それから数日後。
派遣契約の“終了”は、なぜか撤回された。
「部署異動があったから継続で」とだけ、派遣元からあっさりと告げられた。
私は、何も聞かなかった。
もちろん、彼にも、何一つ問わなかった。
ただ、あの夜のことは──私の中に、静かに沈殿していった。
そしてその半年後。
同じ職場の男性と恋に落ち、やがて結婚した。
夫には、なにも話していない。
聞かれもしないし、聞かせる理由もない。
けれど、ふとした夜、あの時のことを思い出すことがある。
口唇に広がる、あの脈動の重み。
逆さになったまま、私の奥を舐めながら震えていた舌の記憶。
そして、沈黙のまま咥えることが、なぜあんなにも“赦し”のように感じられたのか──。
きっとあれは、私なりの選択だったのだと思う。
沈黙のなかで身体を差し出すことで、何かを繋ぎとめようとした、あの夜だけの私の答え。
それは“汚れ”ではなく、“真実”だった。
そして今も、誰にも見せない記憶として、私の唇の奥で、脈を打ち続けている。


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