部下のマッサージが導いた、密室で目覚めた本能──38歳人妻が味わったぬるんだ午後の記憶

外回りの営業は、想像以上に肩と腰にくる。
とくに夏の午後、車のシートに沈むたびに、背中の奥がじわじわと硬直していくのがわかる。

「部長、大丈夫ですか?」

運転席から心配そうに振り返るのは、直属の部下、涼介くん。
25歳。学生時代はずっとバスケ部だったらしく、体格はしなやかで、でもどこか柔らかい。

「肩が、ちょっと……」
思わず漏らした私の言葉に、彼はハンドルを握る手を止め、路肩に車を寄せた。

「ちょっと、僕に任せてもらえませんか」
そう言って、彼は自分のジャケットを脱いだ。シャツ越しに浮かぶ腕の筋が、妙に頼もしく見えた。


「……ここ、ですか?」

後部座席に移った私の背後に、彼の手のひらがそっと触れる。
一瞬、肌が緊張する。でもその温度は、驚くほど優しかった。

「部長、僕、けっこうマッサージうまいんですよ。バスケ部で鍛えられてて」

言いながら、彼の指がゆっくりと肩甲骨の内側を押してくる。
ぐっと入ってくる圧──その深さと丁寧さに、思わず息が漏れた。

「……気持ちいい、かも……」
言葉にするのが少し恥ずかしくて、視線は窓の外に向けたまま。

でも彼の手は止まらなかった。
肩から首筋へ、そして鎖骨の際まで、じわじわと輪郭をなぞるように指が泳いでくる。


「ここ、けっこう固いですね……。ちょっと、失礼します」

そう言って、彼の指先が私のブラウスの襟の中へと忍び込む。
指の腹が、肌に直接触れた瞬間、背筋がぴくりと震えた。

そのまま、ブラ紐の下まで、彼の手が入り込んで──

「……涼介くん、それ、やりすぎじゃ……」

言いかけた私の声を遮るように、彼は静かに言った。

「……部長が、こんなに熱くなってるなんて思わなかったから」
その言葉に、心が跳ねた。まさか。
でも、触れられている場所は確かに、じっとりと濡れていた。


彼は静かに私の耳元へ顔を寄せてきた。
「外は暑いですね。……でも、こっちのほうが熱い」
そのささやきに、身体の奥がじゅんと疼いた。

営業車の密室。窓を少しだけ開けた空間に、ふたりの熱だけが渦を巻いていた。

彼の指がブラのホックを外し、私の胸元にゆっくりと滑っていく。
指先が円を描きながら、乳房のふくらみに触れ、乳首へとたどり着く。

「やわらかい……」

彼のつぶやきとともに、唇がそこに触れたとき、私はもう理性の綱を手放していた。


その後のことは、夢のようだった。
彼の手、唇、舌──すべてが、私の身体の「感じる場所」を知っていたかのように的確で。

営業車の後部座席で、私たちは肌と肌をぶつけ合いながら、まるで言葉では足りない「なにか」を交換していた。

──最後の瞬間、彼が私の中に深く沈んできたとき、私は彼の名前をかすかに呼んでいた。

その声は、きっと誰にも聞こえていない。

でも、私の中では、今でもあの瞬間の熱が続いている。
肩のこりなんて、すっかり消えていた。代わりに残ったのは、あの指先のぬくもり。


また同じように、外回りが続く。
けれど今は、どこかで期待してしまっている自分がいる。

「部長、また凝ってますね」
──あの声が聞こえたら、私はもう、断れない。

あの指が、私の深いところに届いてしまったのだから。

営業車を降りたとき、私はまだ迷っていた。
仕事終わりのラフな空気。淡い夕暮れ。
そのどれもが、「いま帰るべき」と告げている気がして。

けれど、隣にいた涼介の一言が、その迷いをやさしく拭い去った。

「……部長。今日はもう、このまま直帰にしましょう」

真面目で、礼儀正しくて、いつも敬語で話す彼のくちびるから、
その夜だけは少しだけ砕けた言葉が零れていた。
言い訳も、背徳も、すべては夜のせいにして。
私たちは、誰も見ていないホテルの入り口へと、並んで足を運んだ。


シャワーのあと、ローションマットの前にバスタオルを巻いて立つと、
涼介はシャツのボタンを外しながら、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。
鍛えられた肩、引き締まった腹。
目を逸らしたいのに、逸らせなかった。

「さっきは営業車の中でしたから……今日は、ちゃんと癒せたらと思って」

彼が手にしたボトルから、とろりと垂れるローションが、掌でゆっくり温められていく。
ぬるんだ液体が指のあいだからこぼれ落ちる光景が、
どこか卑猥で、でもなぜか祈りのようにも見えた。


私がマットに仰向けになると、彼の指が、胸元からそっと這い上がってきた。
ローションを纏ったその動きは、まるで水面を撫でるように繊細で、でも確実に熱を運んでくる。

乳房を包む掌。
円を描くように撫でたあと、指の腹でやさしく尖端をなぞられると、
背中が自然とマットから浮いてしまう。

「部長のここ、すごく……感じてますね」

その囁きに、羞恥がこみ上げる。
でも、同時に心の奥で誰かが頷いているのを、私は感じていた。


やがて彼は、身体を滑らせるようにして私の膝のあいだへと顔をうずめた。
脚を開く動作すら、彼のゆるやかな誘導に身を預けるだけだった。

そして──
彼の舌が、ゆっくりと私の一番繊細な場所に触れる。
浅く、軽く、まるで肌を味わうような吸い上げ。

呼吸が一気に熱を帯び、喉の奥から声が零れた。

「……あ、や、そこ……」

唇と舌が、波のように敏感な突端を巻き込んでゆく。
吸って、舌でなぞって、また吸って──
熱と濡れが増すたびに、内側がきゅっと疼いてくる。

「そんな吸い方……っ、だめ……」

けれど、脚はもう閉じられない。
むしろ、彼の頭を深く抱き込むように腰が動いてしまっていた。


「……今度は、僕の番でもいいですか」

彼の声が、下から響いてくる。
私は無言で頷いた。

涼介はコンドームをつけ、私の脚のあいだに膝をつくと、
熱を帯びた中心をゆっくりと、でも確実に私の奥へ滑らせてくる。

「んっ……」

マットの上で、ぬるぬるとした音が広がる。
正常位。彼の腕の中で、私は抱きすくめられながら、何度も奥を満たされていく。

汗が額を伝い、彼の頬に触れた。
舌と舌が触れ合い、口内で熱が溶けてゆく。


「……次、上に来てもらってもいいですか」

そう促されて、私はそっと彼の上にまたがる。
騎乗位。
自分から沈んでいくという行為に、羞恥と興奮が同時に満ちる。

彼の胸に手をついて、腰をゆっくりと回すと、
「それ、めちゃくちゃ……」と涼介が言葉を詰まらせた。

「どうしたの?」

からかうように聞くと、彼は苦笑しながら答える。

「部長、エロすぎて……我慢できなくなりそうです」

その言葉に、私は笑った。
でもその笑いのあと、腰はさらに深く沈んでいた。


最後は、後ろから。
後背位という体位は、見えないぶんだけ、すべての感覚が研ぎ澄まされる。

涼介の手が私の腰を支え、奥へ奥へと突き上げてくる。
吐息が、耳の後ろにかかる。
ローションの滑りと、熱と、濡れと──
そのすべてが、私の理性を曇らせる。

「もう……いく……っ」

その瞬間、彼の動きが激しくなり、
私は高く高く登って、ふっと、宙に浮いたような感覚になった。

絶頂。

自分がどう喘いでいたかもわからない。
ただ、彼の腕の中で、私は何かを全部、手放していた。


クライマックスのあとの静けさは、
まるで夜明け前のように澄んでいた。

濡れたマットの上で、私は彼の腕に顔を埋めながら、
小さな声で言った。

「……こんなに女になったの、久しぶり」

涼介はそれに、何も言わず、そっと私の髪を撫でてくれた。

あの夜、私は女としてほどけ、
そして、なにか深く目覚めた。

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