義弟の視線で“女”が甦った午後──28歳主婦が沈んだ背徳の夏の記憶

第一章:午後三時の風が、私たちを繋いだ

― 義理の姉ではなく、ひとりの“女”として見られた瞬間 ―

あの夏のことを思い出すたび、決まって胸の奥がひりつく。
午後三時。陽射しが傾きはじめる頃、私は女として“目覚めさせられてしまった”。


私は美咲、28歳の主婦。結婚してもうすぐ3年になる。
東京郊外の静かな住宅地に、夫と二人で暮らしている。彼は安定した企業に勤めていて、真面目で優しい人。私は家事の合間に、たまにパートに出たり、近所のカフェで読書を楽しんだりと、穏やかな日常を繰り返していた。

だけど──
いつからだろう。夫との会話が減って、触れられることも少なくなって。
私のなかの“女”は、いつのまにか深い眠りについていた。

そんなある日。
夫の弟、陽斗(はると)が、夏の間だけ我が家に泊まることになった。

彼はまだ17歳。高校3年生で、いまは大学受験の真っ只中。自宅では集中できないからと、母──つまり私の義母が提案して、夫も二つ返事で了承した。血の繋がった実の弟。まだ高校生だし、私も深くは考えなかった。

「じゃあ、しばらくよろしくな、美咲」

夫に促され、玄関に現れた陽斗は、思ったより背が高くなっていた。
最後に会ったのは、結婚式のとき。まだ声変わりも終わっていなかった彼が、今では私の目を真っ直ぐ見て、少し照れたように笑った。

「おじゃまします、美咲さん」

「うん、気を使わなくていいからね。受験、大変でしょ」

ほんの数秒、彼の視線が私の脚元で止まったのを、私は気づいていた。
その日は暑くて、私は薄手のリネンのショートパンツに、胸元が開いたキャミソールを着ていた。まさか今日から来るなんて思わなくて、油断していた。

でも、その視線を受けた瞬間──
私の中で、何かが静かに、しかし確かに動き始めていた。


陽斗が家に来てから一週間。
昼間は予備校に通い、夜はダイニングで黙々と問題集に向かっていた。私はキッチンで夕食の支度をしながら、彼の横顔をときどき盗み見ていた。

整った横顔。汗で少し乱れた髪。
思春期の少年の輪郭を残しながらも、時折ふと見せる大人びた表情。

「……すごい集中力だね」

そう声をかけると、彼はペンを置いて、こちらを見た。

「……美咲さん、香水、変えました?」

「えっ? ……うん、バニラ系。分かる?」

「さっき、すれ違ったとき……すごくいい匂いでした」

その言葉に、思わず心臓が跳ねた。
夫ですら気づかなかった香りに、彼が反応した。しかも、“すれ違ったとき”の匂いに──。

香水をつけたのは、自分でも気まぐれだった。ただ、どこかで“何か”を求めていたのかもしれない。誰かに、女として見られたくて。

「そんなの、気にしなくていいのに」

笑ってごまかそうとしたけど、言葉がうまく出てこなかった。
彼の視線は、もう私の目を見ていなかった。ほんの少しだけ、胸元のほうへ──。

湿度の高い午後の空気が、ぴたりと肌に貼りついた。

まるでその視線が、私の肌の温度を変えてしまうかのように。


夜。シャワーのあと、バスルームの鏡に映った自分を見て、私は思った。
「まるで、恋をしている女みたい」

胸の先が微かに張っていて、太ももがほんのり熱い。
たった数秒の視線。それだけで、眠っていた感覚が目を覚ましかけている。

――これは、まずい。
私は義姉であって、彼は夫の弟。
絶対に、踏み越えてはいけない関係。

けれど──
女としての私の身体は、そう簡単には戻れない扉の前で、もう、ドアノブに手をかけてしまっていた。

第二章:タブーと湿度の間

― 禁じられた距離が、ゆっくりと崩れていく ―

義弟・陽斗が我が家に来て二週間が過ぎた頃。
彼の視線が、日ごとに変わっていくのを、私は確かに感じていた。

最初は「偶然」だった。
洗濯物を干しているとき。しゃがんで引き出しを開けたとき。キッチンでかがんだ私の背後。
彼の視線が、私の動きに吸い寄せられるように止まるのだ。

けれど最近は──まるで私のほうから、見せつけている気がしていた。


ある午後、夫は出張で不在だった。
陽斗が予備校から戻ってくる頃を見計らい、私は少し意図的に、薄いシャツのボタンをひとつ開けてみた。
胸元のレースが、風に揺れる。

「……おかえり。お疲れさま」

「……あ、うん。ただいま」

彼の返事はわずかに遅れた。
目が私の鎖骨に留まり、ゆっくりと胸元をなぞっていくのがわかった。
その視線に応えるように、私の奥がじんわりと熱を帯びはじめる。

私はキッチンに向かいながら、わざと冷蔵庫の扉を開け、体を横に伸ばした。
布越しに胸が引き上げられる感覚。シャツの内側で、乳首がそっと布に触れ、硬くなってゆく。

そんな自分に気づいて、ぞくりとした。

「……ねえ、冷たいの飲む? 炭酸でいい?」

「うん……それ、もらいます」

陽斗が近づく。手と手が重なる。
瓶を受け取るその一瞬。私の指先が、彼の親指の内側に触れた。
熱かった。彼の手が、思ったよりもずっと。

彼はしばらく、そのまま瓶を持ったまま動かなかった。

「……美咲さん」

その声に、私は振り向けなかった。
彼の目を見てしまったら、崩れてしまう気がした。
代わりに、冷蔵庫の鏡面に映る私の姿を見つめていた。

薄いシャツ越しに透ける、下着のライン。
ブラの縁、背中のくびれ、そして腰のあたりで緩やかに波打つリネンの布。

――私は、誘っている。

無意識ではない。明らかに、女としての私が目覚め、彼の視線にその存在を曝け出していた。

「……見たいなら、見てもいいのよ」

それは、唇からこぼれたささやき。
彼が本当に聞いたのかはわからない。
でも、次の瞬間。背後から、そっと手が伸びてきた。


シャツの裾に触れた彼の指は、恐ろしいほど静かだった。
そのまま、腰骨のあたりに手のひらを添えると、ゆっくりと引き寄せる。

背中に感じる、少年のようでいて、確かに“男”の体温。
彼の唇が、私の肩にふれるまでに、わずか数秒だった。

「陽斗……だめよ」

そう言いながら、私は振り払わなかった。
代わりに、首筋を傾け、彼の吐息が滑り込むのを受け入れた。

「だめって、言うなら……」

耳元にそっと落ちる声。
「どうして、こんなに……綺麗なんですか」


その瞬間、私の中の何かが崩れ落ちた。
理性。道徳。姉としての立場。すべてが音を立てて。

シャツのボタンが外れるたび、肌が呼吸を始める。
胸元に触れた手は震えていた。でもその震えさえ、私の奥を打つように熱かった。

「だめ、陽斗……見ないで……」

そう言いながら、シャツの裾を自ら持ち上げていたのは、私だった。

ブラのカップをそっとずらされ、胸が露わになる。
その瞬間、彼の舌が私の先端に触れた。熱く、ゆっくりと、確かめるように。

「……んっ」

声が漏れる。
普段なら抑えられたはずの吐息が、まるで許しを乞うように唇をすり抜けてゆく。

背後から、彼の体が重なる。ショートパンツの上からなぞられる指が、やがて腿の内側へ。
もう止められなかった。止める気もなかった。

ひとりの“女”として触れられることを、私の身体は何よりも渇望していた。


その夜。夫の不在をいいことに、私たちは声を押し殺しながら、背徳の湿度に沈んだ。

義弟の視線に犯された夏。
それは、まだ始まったばかりだった。

第三章:快楽と赦しのあわいに

― これは罪ではなく、私の再生だった ―

彼の中で私が震えていたのではない。
私の中で、私自身が崩れていったのだ。


義弟──陽斗の体温が、私の中に溶けていくのを感じながら、私はどこか遠い場所を見つめていた。
背徳の真っ只中にいるというのに、心の奥では、ずっと黙っていた“私”が、何かを訴えはじめていた。

「私は、誰のために女であり続けてきたのだろう」

結婚して三年。
夫の笑顔に安心し、日々の献立に迷い、洗濯物の香りで季節を感じる。
そんな“平穏”の中で、私は「いい妻」「無難な主婦」になっていくことに何の疑いも持たなかった。
でも、その中で少しずつ、“女としての自分”の声を、私は聞かなくなっていた。

化粧品も下着も、いつのまにか「動きやすいから」「肌に優しいから」と、機能を言い訳にして選ぶようになっていた。

そうして、心の奥に封じ込めたままだった──
**“感じたい”“求められたい”“溺れたい”**という、本能に近い欲望。

それを、彼──夫の弟という、最も遠ざけるべき存在が呼び覚ましたことに、私は抗えなかった。


陽斗の吐息が、私の肩に落ちる。
そのたびに、胸の奥の柔らかい場所が震える。

「……きれいです、全部」

耳元でそう囁かれたとき、私は思わず目を閉じた。

ああ、私はいま、“美しい”と言われたんだ。
ただの主婦でもなく、義理の姉でもなく。
“女”として。

それは夫にも、誰にも言われなくなっていた言葉だった。
そして私は、ずっとそれを、求めていたのだ。


交わりのリズムが深くなるにつれ、私の内側にひとつの感情が溢れてきた。

「許されたい」ではなく、「許す」感覚。

夫にではない。
この行為にでもない。

ずっと我慢し続けてきた“私自身”を、ようやく赦したかった。

「美咲さん……もう……」

陽斗の熱が、私の奥に届く。
若い身体が震え、私のなかに生命のようなものを放つその瞬間、
私の胸にも、ずっと冷えていた泉のような涙がにじんだ。

頬を伝う涙に、彼が気づいた。

「……ごめんなさい、俺……」

「違うの……違うのよ……」

私は彼の顔を両手で包み込み、額を重ねた。
声にならない思いが、まぶたの裏で静かに広がっていく。

この涙は、罪じゃない。痛みでもない。
自分を、ようやく取り戻せたことへの涙だった。


行為のあと、私たちは静かに寄り添った。
重ねた身体のぬくもりより、重ねた心のひび割れが、お互いに染み込んでいた。

陽斗の腕に抱かれながら、私はゆっくりと深呼吸する。
いつか、この関係が終わるとしても──
あの夜、確かに私という“女”が、彼の中で生きたことだけは、永遠に残る。


「私は、まだ女だった。
それを思い出させてくれたのが、たとえ“夫の弟”であったとしても──
この再生は、私のものだ」

私はその夏、快楽と罪と赦しのあわいに生まれ変わった。
もう一度、自分自身を抱きしめるために。

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