【第1部】濡れた欠落に触れた夜──札幌で再会した元同僚が開いた秘密の扉
私は 沙耶(さや)、38歳。
東京から夫の転勤で札幌に越してきて、もうすぐ3年になる。知らない土地に馴染もうとしながらも、夫との生活はどこか“空白”を抱えていた。
夫は誠実で優しい。けれど、夜の営みは私が一度絶頂に達すると、そこで終わってしまう。私の震えを見届けた彼は「よかったね」と微笑むけれど、その先を求める熱は遮られる。夫の優しさは、私の女としての渇きを置き去りにしていった。
夜、ベッドに横たわると、私はいつも胸の奥で言葉にならない疼きを抱えた。
「私は…もっと、女でいたい」
そう心の中で囁いても、夫に伝えることはできなかった。
そんなある日、街中で偶然に声をかけられた。
「……沙耶さん?」
振り向くと、懐かしい顔があった。
大学時代のアルバイト先で一緒だった 小田。東京で過ごした青春の記憶を思い出させる、あの頃と変わらない笑顔。
「え、札幌にいるんだ?」
驚きと懐かしさが一気に込み上げ、私は自然と微笑んでいた。
気づけば「久しぶりに飲もうよ」という誘いを断れず、夜のすすきのでグラスを重ねていた。
赤い照明の下、久々に大声で笑った。夫には見せたことのない表情で、私は無防備に笑っていたのかもしれない。
アルコールに頬が熱を帯びる。
気づけば小田の視線が私の唇に、胸元に、滑るように落ちていく。
──その熱を、私はわかっていながら止めなかった。
「沙耶さん、変わらないな」
低い声に、心臓が強く脈打つ。
グラスを持つ指が少し震えているのを、小田は見逃さなかっただろう。
二人きりの帰り道。夜風に触れながらも、身体は熱に包まれていた。
小田の指先がそっと私の手に触れた瞬間、逃げ出すべきだと頭ではわかっていた。
けれど、私の指は彼の指を握り返していた。
──その刹那、自分が妻ではなく、ただの“女”に戻っていくのをはっきりと感じた。
【第2部】抗えない熱に溺れて──身体が裏切りを求めた瞬間
小田の部屋に足を踏み入れた瞬間、私はすでに“妻”ではなかった。
玄関を閉める音がやけに大きく響き、その響きが背筋を震わせる。
ソファに腰を下ろすと、アルコールの余韻と夜の湿った空気が混ざり合い、肌の感覚が妙に敏感になっているのがわかった。
「沙耶さん、ほんとに変わらないね」
そう言って笑う小田の視線は、私の頬から鎖骨へ、そしてさらに下へと降りていく。
その熱を帯びた眼差しを、私は拒まなかった。むしろ心の奥で「見てほしい」と願ってしまっていた。
――夫には決して見せたことのない顔を、今、私はしている。
小田の指先が、そっと私の手の甲に触れる。
たったそれだけで、心臓が破裂しそうなほどに高鳴り、呼吸が乱れる。
「だめ…」と言葉が喉まで上がったが、声にはならなかった。
次の瞬間、その指が私の髪をすくい、頬へと滑ってきた。
「……っ」
甘く震える吐息が、勝手に漏れ出していた。
唇が重なると同時に、背中から熱が駆け抜ける。
柔らかな舌の動きに合わせて、私は抗えず口を開き、絡み合う感触に全身を奪われていく。
夫との接吻では決して感じたことのない、飢えを満たすような濃密さ。
「ん…っ…だめ…こんな…」
口では拒むのに、身体は正直に応えていた。
脚の内側に走る熱は、自分でも抑えきれない。
小田の手がブラウスのボタンにかかる。
止めるべきだとわかっているのに、私は両手を伸ばして彼の背中を抱き寄せていた。
「……もっと」
自分でも信じられない声が唇から零れた瞬間、小田の動きはさらに強くなる。
ブラウスがはだけ、素肌に触れた掌の熱に、背筋が反射的に震える。
乳房を覆うレース越しに押し寄せる刺激に、声を押し殺すことができなかった。
「あ…っ、ん…っ…だめ…でも…気持ちいい…」
夫との行為では決して出たことのない声。
それを小田は耳元で確かめるように聞き取り、吐息を熱く絡めてきた。
「もっと、聞かせて」
囁かれた瞬間、羞恥と快楽が一気に弾け、下腹部から熱が溢れ出していく。
ソファに押し倒され、脚を開かされる。
心では必死に「裏切っている」と叫んでいるのに、身体は甘美な痛みに酔うように震えていた。
夫には知られたくない、知られてはいけない声が、部屋の中に何度も響く。
「…っああ、だめ、そこ…っ」
小田の指先と舌が容赦なく私を暴き出し、欲望の奥を掻き立てる。
自分でも知らなかった感覚に飲み込まれ、声が止めどなくあふれ出す。
――私はもう戻れない。
小田の熱と、そこに引きずり込まれていく自分の声が、その事実を突きつけていた。
【第3部】罪と悦びの狭間で震える妻──絶頂に絡め取られた夜の余韻
小田の熱は、もう私の理性を遠くに押しやっていた。
ソファに沈められた身体は、彼の重みと吐息に支配され、逃げ場を失っている。
「…沙耶さん、もう、止まれないよ」
耳元で落ちる低い声。その響きに、背筋が痺れるほど震えた。
脚を押し開かれたまま、深く満たされていく感覚。
熱が奥へ奥へと突き刺さり、息を吸うたびに喉から甘い声が漏れ出す。
「っあ…あぁ…だめ…もう…」
頭では必死に否定しているのに、腰は無意識に彼を迎え入れるように揺れていた。
夫との営みでは決して味わえなかった“終わりのない熱”が、次々と私を貫く。
果てたはずなのに、また新たな波が押し寄せ、身体の奥が何度も弾ける。
「やっ…もうイッてるのに…っ、やめて…でも…あぁっ…」
絶え間ない律動に、声は自分のものではないように乱れていた。
小田は私の頬を両手で包み、瞳を覗き込む。
「もっと見せて。妻じゃなくて…女の顔を」
その言葉に、心の奥に隠していた欲望が暴かれていく。
私は目を逸らすことができず、涙を滲ませながらも必死に頷いていた。
突き上げる熱と、彼の囁きが混ざり合い、
「…あっ…あぁぁ……っ!」
全身を突き抜けるような絶頂が、私を何度も飲み込んだ。
ソファの下で指先がシーツを掴み、爪が立つ。腰が勝手に反り返り、喉からは止められない声が溢れ続ける。
夫には絶対に聞かせたことのない声。
知られてはいけない、でも、これが本当の“私の声”。
裏切りの中で、私は女として初めて解放されていった。
――どれほど時間が経ったのか。
荒い息を整えながら、小田の胸に顔を埋めた。
汗の匂いと、互いの熱がまだ消えずにまとわりついている。
罪悪感が波のように押し寄せてくるのに、それ以上に満たされた身体は震えを止められなかった。
「ごめん…私、もう戻れないかもしれない」
小さな声でそう零したとき、小田は静かに私を抱き寄せた。
その腕の中で、私は“妻”としての自分をどこか遠くに置き去りにしたまま、女であることの余韻に溺れていた。
【まとめ】なぜ私は妻でありながら女として堕ちていったのか
夫を愛している。それは嘘ではない。
けれど、女として渇いていた私の身体は、小田との行為に抗えず、罪と悦びの狭間で震え続けた。
裏切りと知りながらも、私を“女”として解放してくれる熱を求めてしまう。
その矛盾こそが、今の私を形作っている。
――もう元の妻には戻れない。
私は罪を抱えたまま、それでも女である自分を捨てられずにいるのだ。



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