寝取られの館11 ~ダッチワイフにされた妻~ 幾野まち
【第1部】混浴露天風呂で目が覚めた夜──眠れない人妻がこぼしたため息と本音
主人と二人で温泉に泊まったのは、結婚して十年目の記念旅行でした。
私は三十六歳、専業主婦。
「おめでたいはずの節目」なのに、どこか胸の奥が乾いている自覚がありました。
夕食でお酒を少し飲み、部屋に戻ってから、主人はあっという間に寝息を立てました。
畳の匂いと布団のやわらかさに包まれながら、私は天井を見つめます。
──最近、主人に触れられていない。
そう気づいたのは、いつだったでしょうか。
毎日の家事、仕事のストレス、子どものこと。
理由はいくらでも並べられます。
でも、事実だけを言うなら、私はずっと「女として抱かれていない」感覚に、静かにすり減っていました。
深夜の三時。
障子越しの外は真っ暗で、廊下の灯りだけが細く差し込んでいます。
隣で眠る主人の寝顔を見つめながら、私は小さく息を吐きました。
「……少し、お風呂行ってこようかな」
そう呟いて、そっと布団を抜け出します。
誰もいないであろう時間帯なら、誰の目も気にせずお湯に沈める。
そう思ったのです。
館内は静まり返っていて、カーペットの上を歩く足音だけが小さく響きます。
婦人用の内風呂へ向かう途中、ふと別の案内板が目に入りました。
──混浴露天風呂。
「さすがにこんな時間、誰もいないわよね」
自分に言い訳するように心の中でつぶやきながら、その矢印の先へ足を向けていました。
自分でも、少しだけわざとらしい脚運びをしていることに気づいていました。
脱衣所には誰もいません。
浴衣を脱ぎ、タオルを巻くと、鏡の中に自分の身体が現れます。
産後に少し柔らかくなったお腹。
でも、胸はまだ形を保っていて、腰のラインも悪くはない。
「三十六歳にしては、頑張ってるほうよね」
小さく笑って、私は扉を開けました。
夜気が一気に肌にまとわりつきます。
露天風呂は広く、岩山のような造りになっていて、南国のような植物が湯気の向こうにぼんやり揺れていました。
星は見えませんが、薄く差し込むライトが湯面を銀色に震わせています。
湯に足先を入れると、思ったよりも熱くはありませんでした。
静かに腰を沈め、肩まで浸かると、肌を撫でる湯の重さが心地いい。
遠くのほうで岩の上からこんこんと湧出した湯が滝のように流れ落ちていて、その音が頭の中を空っぽにしてくれます。
私は、その滝の下までゆっくり歩いていきました。
岩に背中を預け、落ちてくる湯を肩で受けると、全身の力が抜けていくのが分かります。
「……気持ちいい……」
思わず声が漏れました。
落ちてくるお湯が、少し強めのマッサージのように肩を叩き、背中を流れていきます。
じんわりと温まるうち、まぶたが重くなっていく感覚がありました。
──あ、眠くなってきた。
意識がふっと遠のいた、そのときです。
「……すみません」
静かな男の声が、湯気の向こうから届きました。
【第2部】混浴で交差した視線と指先──人妻の身体にじわじわ広がる熱と罪悪感
はっと目を開けると、湯面の揺らぎの向こうに、男の人の影が見えました。
年齢は三十代後半くらいでしょうか。
細身の体つきで、タオルを腰に巻き、申し訳なさそうにこちらを見ています。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。誰もいないと思ってたので……」
彼がそう言う前に、心の中で同じ言葉をつぶやいていたのは、私のほうでした。
「い、いえ……こちらこそ。私も勝手に入ってしまって……」
声が少し上ずります。
混浴で男性と二人きり。
その事実に、心臓が一気に騒ぎ出しました。
「ここ、滝の下、気持ちいいですよね」
彼が視線を岩の上に向けながら言います。
「はい……つい、ぼーっとしてしまって」
「さっきから、すごく気持ちよさそうな顔してたので、声かけるタイミング迷いました」
冗談めかした言い方なのに、どこか本気の色が混ざっています。
その言葉に、頬の内側がじわっと熱くなりました。
──見られていたんだ、さっきまでの私の顔を。
「旅、お一人ですか?」
「いえ、主人と……でも、もうぐっすり寝ていて」
自分で言いながら、胸の奥が少しだけざわつきます。
「そうなんですね。……失礼ですが、ちょっとだけ、羨ましいです」
「羨ましい?」
「奥さんと温泉に来てくれるご主人って、いいなって」
その一言が、皮肉にも私の胸に刺さりました。
いい夫だと、私も思っている。
真面目で、誠実で、優しい。
──でも、女として触れられることは、ほとんどもうない。
そのことを口に出してしまいそうになって、私は慌てて小さく笑いました。
「あなたは、お一人で?」
「はい。仕事が立て込んでて、強制的に休みを取らされました。
せっかくなら、誰もいない時間に浸かりたくて、こんな時間に」
彼は笑いながらも、どこか疲れたような目をしていました。
私たちは滝の音を挟んで、少しの沈黙を共有します。
心臓の鼓動が、湯に触れている皮膚からも聞こえてきそうでした。
「……さっき、すごく寂しそうな顔をしていました」
突然、彼がぽつりとこぼしました。
「え?」
「寝ているみたいに見えたんですけど、表情が……
なんというか、自分でもよく知っている顔で」
「よく知っている……?」
「誰かに触れてほしいのに、触れてって言えないときの顔です」
その言葉で、胸の奥をつかまれたような感覚が走りました。
なぜ、この人にそんなことを言われなくてはいけないのか。
でも、図星を刺されていることが悔しいくらいに、分かってしまう。
「……そんな顔、していました?」
「ええ、とても綺麗でした」
綺麗。
女としての私を、そんなふうに言ってくれる声を、いつ、最後に聞いたでしょうか。
湯気の向こうで、彼の視線が静かにこちらを探っているのを感じました。
私も、逃げずにその目を見つめ返している自分に気づきます。
タオルの下で、湯が肌を這う感覚がいつもより鮮明でした。
肩に落ちるお湯が、妙に敏感な場所に当たっているように感じてしまう。
自分の身体が、少しずつ目覚めていく音がしました。
「……変なこと、言ってしまいましたね。忘れてください」
彼が視線をそらそうとした瞬間、私は思わず言葉を投げていました。
「忘れられません」
自分でも驚くほど、はっきりした声でした。
「そんなふうに言ってもらえたの、久しぶりだから」
彼の目が、もう一度こちらを見ました。
湯気の向こうで、その瞳が静かに揺れます。
滝の下は、周囲から少し死角になっています。
ライトの光も弱く、二人の輪郭だけがぼんやりと浮かんでいました。
「……少し、近くに行ってもいいですか」
彼の問いかけは、はっきりとした「許可」の確認でした。
私は一瞬だけ迷い、けれど、首を縦に振っている自分に気づきました。
「……はい」
湯の中で、距離がゆっくりと縮まっていきます。
彼の体温と、お湯の熱が混じりあって、空気が一段と濃くなった気がしました。
すぐ隣まで来た彼は、私に触れようともしないまま、少しだけ首を傾けて言いました。
「嫌だったら、すぐにやめます。
でも、今夜だけは、あなたの寂しさを少しだけ、分けてもらってもいいですか」
その優しい言い方が、いちばん卑怯だと思いました。
でも、同時に、いちばん欲しかった言葉でもありました。
【第3部】人妻の身体がほどけた一夜──夫には言えない温泉SEXと、朝焼けの後悔
彼の指が、そっと私の頬に触れました。
熱いはずのお湯の中で、その指先だけが、やけにくっきりとした温度を持っていました。
私は目を閉じました。
拒まない、という返事を、身体ごと差し出すように。
唇が重なった瞬間、頭の中で何かが弾けました。
ずいぶん長いあいだ閉じていた扉が、軋みながらゆっくり開いていくような感覚でした。
「……んっ……」
自分の喉の奥から漏れた声に、自分がいちばん驚きました。
彼の唇が離れ、少しだけ距離を取ります。
「怖くないですか?」
「怖いです」
正直に答えると、彼は少し困ったように笑いました。
「やめたほうがいい、かもしれませんね」
「でも、やめてほしくない、って思っている自分もいます」
その告白は、もはや私自身への宣言でした。
彼は私の肩にそっと手を回し、滝の当たらない少し奥の岩の陰まで導きました。
湯気が濃く、外からは二人の姿がほとんど見えない場所です。
そこで彼は、もう一度だけ、はっきりと尋ねました。
「今からすること、ぜんぶ、あなたが嫌だと思ったらすぐに止めます。
それでも、ここにいたいですか」
「……いたい、です」
自分の声が震えているのが分かりました。
恐怖と興奮と、取り返しのつかなさが、胸の奥で渦を巻いていました。
それからのことを、一つ一つの具体的な動きで語ることは、あえてしません。
ただ、肌に触れる指先の軌跡がいかに慎重だったか、
私の表情を確かめるように、何度も目を探してくれたこと、
湯の中で絡みあった呼吸のリズムが、少しずつ同じ速さになっていったことを、私はよく覚えています。
「きれいです……」
何度もそう繰り返す彼の声が、お湯よりも深く私の中に沈んでいきました。
女として見られている、という感覚が、
長いあいだ乾いていた場所に、水を含ませていくのが分かりました。
自分の身体が、誰かの手に導かれてほどけていく。
理性が「やめて」と叫ぶ一方で、奥のほうでは、ずっと前から待ち続けていた何かが「やっと」と囁いている。
「……もう、だめ……」
その言葉がどちらの意味だったのか、自分でも分かりません。
止めてほしいのか、もっと欲しいのか。
彼はそれ以上は追い詰めず、私の呼吸に合わせて動きを変えていきました。
やがて、身体の奥から波のようなものが押し寄せてきました。
湯面が揺れ、頭の中で何かが真っ白に弾けます。
「っ……!」
声にならない声を噛み殺しながら、私は岩に指を立てました。
朝焼け前の暗闇の中で、星の代わりに、自分自身が一瞬だけ強く光ったような気がしました。
どれくらい時間が経ったのか分かりません。
ただ、お湯の熱さではない汗がこめかみを伝い落ちていくのを感じながら、私は彼の胸に額を預けていました。
「……後悔、しますかね」
ぽつりと彼が言いました。
「分かりません。
でも、後悔したとしても、きっと、ずっと忘れられないと思います」
「それなら、きっと無駄にはならないですね」
彼はそう言って、小さく笑いました。
露天風呂を出るとき、私たちは互いに名前を名乗りませんでした。
どこの誰かも知らないまま、ただ一夜の秘密だけを共有して別れる。
それが暗黙の了解のように感じられました。
部屋に戻ると、主人はまだ静かに眠っていました。
私はその隣にそっと横になり、天井を見つめます。
身体は、まださっきの余韻を覚えていました。
でも、胸の奥には、じわじわと重いものが広がっていきます。
──私は、取り返しのつかない秘密を、たった一晩でつくってしまった。
目を閉じると、滝の音と、彼の低い声が混じり合って蘇りました。
その夜、私は最後まで眠ることができませんでした。
まとめ:温泉での一夜が教えてくれたもの──「後悔したSEX」が消えない理由
あの温泉での一夜は、今でも「後悔したSEX」として私の中に残っています。
夫を裏切ってしまった、という事実は、どれだけ時間が経っても消えません。
思い出すたび、胸の奥に冷たい針のような痛みが走ります。
でも同時に、あの夜がなかったら、私はきっと気づかなかったはずです。
──自分がどれほど「女として見られたい」と願っていたのか。
──触れてほしい、きれいだと言ってほしいと、心も身体も飢えていたことに。
後悔と同じくらい強く、「あれは確かに、私の欲望が選んだ夜だった」と認めざるをえない自分がいます。
誰かに無理やり連れていかれたわけでも、強制されたわけでもなく、
最終的に混浴の扉を開け、そこに居続けることを選んだのは、他でもない私自身でした。
人には言えない秘密のSEXは、
楽しかった、気持ちよかった、という単純な言葉では片づけられない重さを残します。
その重さこそが、後悔と興奮の両方を抱えた「大人の記憶」なのかもしれません。
私はきっと、この先もあの夜を思い出すたび、
湯気の向こうで交わった視線と、
「綺麗です」と囁かれた瞬間の自分の震えを、何度でもなぞるのでしょう。
それでも、いま言えることがあるとしたら──
あの一夜が暴いた「私の渇き」を、
これからどう扱っていくかは、
もう誰かではなく、私自身の選択なのだということ。
後悔したSEXは、消せない傷であり、
同時に、「女として生きたい」という私の本音をむき出しにした、
忘れられない温泉の記憶です。




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