【第1部】綺麗になったねの一言が乳房の奥で疼きだすカラオケ三次会の密室湿度
「誰だかわかんなかったよ、綺麗になったなあ──」
乾杯のあとすぐ、三次会のカラオケボックスで、
一番端のソファに腰かけた私の隣で、
中学のときクラスのムードメーカーだった慎太が、
ビールを片手に笑いながらそう言った。
当時の私は、目立たない地味な存在だった。
髪はひとつに結んで、スカートの丈を守るのが好きだった。
異性と目を合わせるのも苦手で、恋なんて、遠い向こうにあった。
でも、今日の私は違った。
ベージュのニットワンピースは、ぴたりと身体の線をなぞる。
髪もゆるく巻いて、ピアスは小さく揺れている。
少し酔っていた。けれどそれ以上に、
「綺麗になった」という言葉が、
乳房の奥で、熱のように広がっていた。
「え、ほんとに……? からかわないでよ」
笑いながらそう返しつつ、
私はたぶん、普段よりも少しだけ膝を寄せていた。
ソファの座面がくぼみ、足と足が軽く触れる。
そこにいたのは慎太、誠、そして陽大──
中学のとき、私はきっと、彼らとほとんど話したことがなかった。
でも今、三人の視線が私をなぞっていた。
ワインを三杯、ビールを一口。
スパークリングを誰かが頼んでくれたのも飲んだ。
気づけば、私はワンピースの背中のファスナーを
自分で少しだけ下ろしていた。暑かったから──そう思った。
でもきっとそれだけじゃない。
「なあ、さっき歌ってたとき、ちょっと肩、見えてた」
誠がぽつりとそう言ったとき、
私の身体の内側に、何かがふっと沈んだ。
「ほんと? ……ちょっと、脱ぎかけてたかも」
わざとらしくないように、
でも心のどこかで、期待している自分がいた。
クーラーの風が背中を撫で、
その冷たさに、胸の先がぴんと硬くなる。
見られている──
中学の頃の“地味な私”を知っている彼らに、
“今の私”が、知られていく。
薄暗い室内。ピンクと青の照明が交互に揺れて、
テーブルには飲みかけのグラスが乱れている。
「……ねえ、次、誰歌う?」
と誤魔化すように問いかけた私に、
陽大が少し間をおいて、「じゃあ俺」と手をあげた。
そのとき、私の肩のラインが、
静かに、彼の目を引いているのを感じた。
熱い。湿っている。濡れているわけじゃない。
けれど、内側が、知らない誰かの手に触れられたような錯覚。
私は知っていた──
これが、“濡れる前”の感覚だということを。
触れられてないのに疼く。
声をかけられただけなのに、奥がきゅっと締まる。
それは羞恥ではなく、もっと甘く、もっと底の方で育っていくもの。
「──じゃあ、ちょっと脱いじゃおっかな」
冗談のように笑って、私は
片肩をそっとワンピースから抜いた。
その瞬間、
彼らの視線が、空気ごと私の肌にまとわりついた。
濡れる準備は、もうできていた。
【第2部】脱いだのはワンピースじゃない羞恥と理性を剥がされていく三人の視線と指先の中で
照明の赤が、
私の片肩から鎖骨を照らしていた。
ワンピースは、ほとんど腕に引っかかっているだけ。
それでも私は笑っていた。
“これは冗談”“酔ってるだけ”という顔をして。
けれど、足元の血は早鐘のように打ち、
脚の奥で、なにかがぬめりながら疼いていた。
「……なんか、エロくない?」
陽大が言った。
一瞬の静寂。
そして、慎太と誠の笑い声が混ざる。
私は笑い返しながらも、喉が詰まりそうだった。
酔いのせいではない。
“見られている”という快楽が、
背中を、胸を、内腿を、静かに溶かしていた。
「じゃあさ──ほんとに脱いだら、どうする?」
ふざけて言った言葉なのに、
声が思っていたよりも濡れていた。
誰よりも私自身が、その声に驚いていた。
誠がグラスを置いた音がして、
その指が、私の肩の縁をひとすじ、なぞった。
「……いいの?」
そのひとことに、私は返事をしなかった。
けれど、拒まなかった。
ファスナーが、音もなく下りていく。
慎太の指先が、
私の背中の中心に這い、
それが脊椎の奥で痙攣を起こした。
「やば……綺麗すぎて、どうしたらいいか……」
陽大が小さく呟く。
ワンピースが落ち、
私はランジェリー姿になっていた。
白くて、透けるレースのもの。
今日はそんなつもりじゃなかった。
でも、今日の私が選んでいたのは、
“見せるための下着”だったのだ。
「ねえ、ちょっとだけ……いい?」
慎太の手が、私の膝に重なる。
私は、ほんの少しだけ脚を開いた。
ワンピースが足元に落ちたまま、
肩を、背中を、腕を、指が巡っていく。
それは撫でるでもなく、掴むでもなく──
まるで見えない舌のように、肌の上を這う。
「きもちいい?」
誠が耳元で訊く。
私は、目を閉じて、うなずいた。
ブラの中に滑り込む手。
優しくもどかしく乳房を持ち上げられ、
指が乳首を見つけるたび、息が漏れる。
「だめ……かも……」
そんな声すら、もう演技じゃなかった。
脚の奥が、じゅんじゅんと疼いている。
濡れていた。
もう下着の中に、自分の熱が広がっていた。
陽大が私の足元にしゃがみこむ。
靴を脱がせ、膝に口づけてきた。
そこから腿へ、内腿へと、
熱が舌のように登ってくる。
「ねえ、ほんとに……ここで?」
私の声が震える。
けれど、誰の手も止まらない。
慎太の舌が乳首を咥え、
誠の指が下着の上から奥を撫でる。
「カラオケボックスなんて……
このためにあるんだよ」
陽大の言葉に、
私は、なぜか涙が滲んでいた。
快感じゃない。
でも、涙が溢れた。
羞恥と悦びと、
「地味だった私」がもうどこにもいないという事実。
濡れていくのは身体だけじゃなかった。
私は、脱いでいた。
服でも、下着でもない、
“理性”と“過去”という名前の何かを──
【第3部】脱がされたのは快楽じゃない濡れた理性とむき出しの自分に満たされていく多重絶頂の夜
私は、もう何も着ていなかった。
乳首には舌の熱がまとわり、
脚の奥では指が、溺れるように何度も掬っていた。
ソファに膝を開いたまま横たわる私を、
三人の男の視線が、息が、舌が、指が、
代わる代わる濡らしていく。
「濡れすぎじゃない……?」
陽大が囁いた声が、太腿の内側に触れた。
羞恥ではなく、快感が反応した。
答えようとした唇からは、
声ではなく喘ぎが漏れた。
「ちが……うの、こんなの……」
その言葉さえ、もう“私”のものではなかった。
誠の指が私の中に滑り込み、
慎太の舌が胸を咥え、
陽大の視線が、私の奥の奥を覗いている。
下着はとうに脱がされ、
濡れた布がテーブルの下でくしゃくしゃになっていた。
「奥のほう、感じてる?」
慎太が囁き、
私は首を振ったつもりだった。
でも身体は、うそをついた。
内側が、きゅうっとしがみつく。
もっと、もっと、と飢えている。
──何が欲しいの?
それを訊かれたら、
私は答えられなかった。
舌か、指か、奥まで貫くものか。
それとも、
「綺麗になったね」と言ってくれたあの言葉の残響か。
誠が私の膝の間に顔を埋め、
舌先で敏感な粒をなぞってくる。
「あっ……や、だめ……やだ……っ」
何度も言った。けれど、
その言葉が出るたびに、私は濡れていた。
「また……いってる?」
陽大の声がどこか遠くで響き、
私は自分がいつから何度絶頂したのか、
もうわからなかった。
奥に指が届くたび、
その奥で心まで揺れて、
喉が震え、脚がひらく。
羞恥の上に、快楽が幾重にも降り積もって──
私はもう、“人妻”でも“中学時代の私”でもなかった。
ただ、
快感という言語で塗り替えられた“裸の自分”だった。
慎太が後ろから私を抱え、
腰を引き寄せる。
「……中学のとき、
こんなふうに欲しかったなんて……思ってなかった」
その言葉に、
私の胸がふるえて熱くなる。
背中にあたる彼の鼓動、
入り口に押し当てられる硬さ、
それらすべてが、私を「本当の意味で濡れさせた」。
挿入の瞬間、
私は心の奥を、ずるりと貫かれたように感じた。
「あ──ん……っ、うそ、や、すご……っ」
痛くはなかった。
けれど、怖いくらい気持ちよかった。
中が引き裂かれるように蠢いて、
自分で自分を抑えられなかった。
陽大が私の手を取り、舐めていた。
誠は私の首筋に噛みついていた。
慎太は奥まで、何度も、
私の理性ごと押し込んできた。
「──もう、壊れる……っ」
私はそう呟いて、
でも、壊れることを望んでいた。
快楽に、記憶に、過去に、すべてに。
絶頂の波が、
一つではなく、幾重にも重なって、
最後には身体のすべてが痙攣していた。
彼らの手も口も指も、
すべてが私の奥に刻まれていた。
息が落ち着いたとき、
私はただ、裸で座り込んでいた。
音のないカラオケボックス。
モニターに揺れる静かな映像。
「……寒くない?」
誠が、私のワンピースをそっとかけてくれる。
でも、私はそのぬくもりよりも、
まだ身体の内側に残る、
指の記憶、舌の残響、
“見られていたこと”の熱を、手放したくなかった。
濡れていたのは、身体だけじゃなかった。
もっと深いところ──
誰にも触れられたことのない、
“自分”という中身の一番奥が、濡れていた。
その夜、
私は女として“綺麗になった”のではない。
女として“解かれてしまった”のだった。


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