【第1部】息づく静寂と視線の熱──人妻のリビングで、湿度が目を覚ます夜
久しぶりに会った先輩は、まるで別人のようだった。
髪は緩やかに後ろで束ねられ、ベージュのエプロン越しに揺れる胸元からは、かすかな母乳の匂いがした。
隣でよちよちと歩く息子くんに目を細めるその横顔は、かつて私の体を何度も濡らした、あの“女”と同一人物とは思えなかった。
夕飯の食卓には、トマトの酸味とオリーブオイルの香り。
母としての時間を纏った彼女の所作ひとつひとつが、なぜか、私の奥を疼かせた。
「ねえ、変わってないね、スズは」
先輩がそう言ってワイングラスを傾けた瞬間、グラス越しの瞳がすっと私を射抜いた。
ふいに掴まれた手の熱。
やわらかな掌の中に、昔と何も変わらない“あの空気”が、ひそやかに揺れていた。
「今日、泊まっていく?」
首を縦に振る私の喉奥で、なにかが“溶けて”いった。
その時点で──私はもう、抗えなかった。
【第2部】濡れる理由、濡らされる記憶──シャワーの密室で交わる舌と声なき声
シャワーの音が、鼓動をかき消す。
濡れた髪の匂い。石けんの泡と、肌と肌の温度が混ざり合って、そこに“関係”の残り香が蘇る。
先輩の指が、肩に、背中に、そして乳房の下へとすべっていくたび、私は呼吸のしかたさえ忘れてしまう。
「変わらないね、感じ方…昔とおんなじ」
耳元で囁かれたその声音が、私の中の何かを開け放った。
シャワーの最中、一度、彼女の指でイかされた。
でも──始まりは、それだけじゃなかった。
リビングのソファがベッドに姿を変え、柔らかなクッションの上でキスが深まっていく。
声を出せない分、息がもれる音だけが、私の奥の疼きを浮き彫りにしていった。
乳首をすり合わせた時、彼女はくすくすと笑った。
「スズ、また硬くなってる。可愛い」
女同士の愛撫なんて、ただの戯れだと思っていた。
でも違った。
あのひとだけは、私の“理性の膜”の内側に、ずっと昔から住み着いていたのだ。
【第3部】喘ぎを封じる唇、躰を濡らす記憶──跨がる先輩、再び溢れた“あの味”
先輩の太ももが、私の頬を包む。
跨がれたその瞬間、視界には濡れた花弁と震える腰しかなかった。
「舐めて、スズ……いっぱい溢れてるの、わかるでしょ?」
甘く、苦く、懐かしい匂い。
数年ぶりのその味に、私の舌が勝手に蠢く。
彼女の喘ぎが、小さく、でも確実に空間を濡らしていった。
バイブの振動が先輩の中で跳ねるたび、彼女の腹筋が波打つように震える。
私は指を、舌を、唇を、そして視線すら彼女に捧げ、ただ快楽の“媒介”となっていった。
その後、何度も何度も、交互にイかせ合い、
やがて私たちは汗と唾液と愛液に塗れながら、重なるように眠った。
体中が蕩けるほどに、満たされ、奪われ、許された夜だった。
翌朝、彼女は朝食をつくりながら、ふと微笑んだ。
「また、旦那が泊まりの時……来てくれる?」
私は黙ってうなずいた。
そのキスが、ほんの少し長くて、湿っていたことを──
私はきっと、ずっと忘れられない。


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