あの午後のことを、私はときどき思い出す。
風のない静かな日で、薄いレースのカーテンが、まるで時間を忘れたように静止していた。
湯気の立つ紅茶をひとりすするこの部屋に、あの影が現れるまでは、私はただ、何もない空白のような時間に埋もれていた。
「ごめんくださーい」
柔らかく、それでいて遠慮がちな声。
インターホン越しのモニターに映ったのは、真新しいスーツに身を包んだ、まだ若い男の子のような顔立ちだった。
私はキッチンから手を拭きながら玄関へ向かい、ドアを開ける。
途端に、外の空気とともに、彼の視線が私の肌に触れた気がした。
「佐藤部長に言われて、ご主人の書斎にある資料を取りに来ました」
額にうっすら汗を浮かべていた。
きっと新入社員だろう。まだ少年のようなあどけなさと、背伸びしようとする大人の雰囲気が混ざり合っていた。
「ちょっと待ってて。今、確認してくるから」
書斎から資料を持って戻ると、彼は丁寧すぎるほどのお辞儀をして、それを受け取った。
「助かりました。じゃあ失礼し――」
「ねえ。コーヒーでも飲んでいかない?」
声が出たのは、私の意思より先に、心の空洞が彼に伸ばした手だった。
夫は出張で不在。今日は誰も、私が何をしているかなんて気にしない。
彼は一瞬戸惑ったように目を泳がせたが、やがて小さく頷いた。
居間に並んで座ると、彼の香水と洗いたてのワイシャツの匂いが鼻をくすぐった。
私は彼の前にカップを置き、自分もソファに腰を下ろす。
「仕事はどう? 慣れてきた?」
「いや…まだまだです。覚えることが多すぎて、頭がパンクしそうです」
苦笑いを浮かべる彼の喉仏が上下するのを、私は思わず目で追っていた。
その動きさえ、どこか艶やかに感じるのは、私の身体が乾いているせいだろうか。
「あなた、何歳?」
「今年で22です」
「じゃあ…私より、7つも下なのね」
「えっ、そんなふうに見えません。佐藤部長の奥さま、すごく若くて綺麗で…」
「お世辞、上手ね」
笑いながらも、心が微かに疼く。
それは女として見られることへの渇望だった。
「私、ほとんど家にいるのよ。外に出るのはスーパーとジムくらい。夫も遅いし、ほとんど会話もなくて」
そう言ったとき、ふと彼の目が私の脚に落ちた。
今日は膝上丈の薄いニットワンピース。座ると自然と裾が上がり、太ももの柔らかい肌が露わになる。
わざと、ゆっくりと脚を組み替えた。
視線が、刺さったまま動かない。
「ねえ。そんなに見るなら…触ってみる?」
彼の肩がびくりと震えた。
「…いいんですか?」
「私は、触れてほしいと思ってるわ」
声が震えていたのは、私のほうだった。
もう止められなかった。見つめられるだけで、身体の奥がきゅう、と疼いていた。
寝室へと誘い、扉は…わざと少しだけ開けたままにした。
通りからの視線までは届かない。でも、どこかで“誰かに見られてしまうかもしれない”という想像が、私の羞恥を刺激した。
私はベッドの縁に座り、ゆっくりと脚を広げる。
スカートが自然とたくし上がり、レースのショーツが露出した。
彼が目を逸らせずにいるのがわかった。
その視線に興奮しながら、私は彼のネクタイを外し、ワイシャツのボタンをひとつずつ外していく。
「……大きいわね」
下着越しにも明らかだった。パンツの内側から、張り裂けそうに脈打つ“それ”の形が、布を盛り上げていた。
彼の手が震えながら、私のブラジャーに触れる。
背中のホックを外し、重みのある胸が零れ落ちたとき、彼は目を潤ませて呟いた。
「…本当に、綺麗すぎて…信じられない」
言葉よりも、熱が欲しかった。
私は彼の腰に手を添え、パンツをゆっくりと下ろす。
現れたそれは、まるで獣のように脈打ち、私を睨みつけていた。
太く、硬く、先端からは透明な雫が滲んでいた。
私は膝をつき、その熱を唇で包む。
根元まで咥えると、喉がきつく締まり、涙が滲むほどだった。
でも、その喉奥までを支配される感覚が、たまらなく、嬉しかった。
「だ、だめです…もう…」
彼の言葉を止めるように、私は唇を離し、ベッドに仰向けになった。
「来て…あなたの、全部で突いて」
熱い塊が、私の中にずぶずぶと入ってきたとき、全身が焼けるような感覚に襲われた。
膣壁が押し広げられ、私の意識は遠のきそうになる。
それほどまでに、彼は大きかった。巨根――という言葉が、頭の中に浮かんだ。
「苦しい…でも…気持ちいい…もっと…」
彼が深く突き上げるたび、ベッドが軋み、私の身体が揺れる。
胸が跳ね、乳首がこすれ、快感の波が何度も私を連れ去った。
脚を肩に乗せられ、奥の奥まで貫かれた瞬間、
私は叫んでいた。
「だめっ…そんなにされたら…また…」
白く弾けた。
身体が震え、涙がこぼれた。
そして。
彼が絶頂のあと、静かに私の隣に崩れ落ちるまで、私たちは何度も、何度も繋がり合った。
肌に残る彼の汗と、ベッドに敷かれた私の羞恥と余韻。
光はまだ、部屋の隅でやわらかく揺れていた。
金曜日の夜、夫が久しぶりに上機嫌で帰ってきた。
ネクタイをゆるめたまま、「ちょっと寄ってもいいか?」と背後から顔を覗かせたのは、私にとって忘れられない“あの彼”だった。
そう、あの日――
午後の陽だまりの中で、初めて身体を重ねた彼。
夫の部下であり、かつて一度だけ、私を女として目覚めさせたあの若い男。
「飲みすぎちゃってさ。こいつ、終電逃したらしくて」
夫はそう言いながら、彼の背をぽんと叩いた。
「少しだけ寝かせてもらって、すぐ帰りますので…」
彼は目を合わせないまま、静かに頭を下げた。
私もまた、微笑むだけで言葉が出なかった。
でも、心臓は正直だった。
喉元がじんわりと熱く、あの日の記憶が身体の内側から湧き上がってくるのがわかった。
リビングでビールを飲みながら、夫はすぐにソファで寝息を立て始めた。
もう何度も見てきた、無防備な寝顔。
安心しきった夫の存在が、逆に私の身体を縛りつけるようで、息が詰まりそうだった。
キッチンでグラスを洗っていると、背後に気配がした。
振り向くと、彼が静かに立っていた。
「…すみません。空気、重くさせてしまって」
その声が、やけに低く響いた。
私は首を横に振る。
「私こそ。気まずくさせたわね…」
それきり、しばらく沈黙が落ちた。
蛇口から滴る水の音だけが、やけに耳に残る。
やがて彼が、小さく呟いた。
「ずっと…思い出していました。あの日のこと」
カチン――
手の中のグラスが、指の震えで音を立てた。
「…あれは、忘れていいことだったのよ」
そう言いながらも、私の膝はかすかに震えていた。
「忘れられません。あんなに…綺麗な身体を見たことがなかった」
その一言が、私の中の何かを壊した。
私はゆっくりと、エプロンを外し、リビングに続く廊下を彼の前を歩いた。
その背に、彼の視線が絡みついてくるのがわかる。
寝室の扉は閉めた。
夫が眠るリビングからは少し離れた場所にある、小さな部屋。
私は無言のまま、彼の前でシャツのボタンに手をかけた。
一つ、また一つ。
肌が露わになるたびに、空気が肌に吸いついてくる。
彼は、私を抱く前よりも遥かに成熟した目で見つめていた。
もう“少年”ではなかった。
彼の手が私の頬に触れ、そっと指先が唇をなぞる。
その瞬間、私は目を閉じていた。
唇が重なり、舌が私の奥へと滑り込む。
音を立てないように息を潜めながら、それでも激しく求め合う。
私の背中を撫でながら、彼は囁いた。
「ずっと、会いたかった」
「私も…あなたの熱が、まだ残ってたの」
彼の手が私の太ももをなぞり、スカートの裾を乱す。
生地が滑り落ち、ショーツ一枚の姿になると、羞恥が胸を焼いた。
「…見ないで」
そう言いながらも、私は膝を開いていた。
彼の指が私の中心に触れた瞬間、甘い痛みとともに快感が走る。
「もう…濡れてますね」
「あなたのせいよ…」
彼が下着を脱ぎ捨てると、そこには、以前にも増して膨張した“それ”が姿を現した。
太く、長く、皮膚が張り詰めている。
あの日感じた“異物感”の記憶が、脳裏に蘇る。
「…怖いくらい、大きい…」
「入れても、いいですか」
「ええ…でも、ゆっくりよ…」
彼が私の脚を抱え込み、体重をかけて入ってきた瞬間、思わず声が漏れそうになり、私は自分の口を手で塞いだ。
奥を突かれるたびに、身体がベッドに沈み、喘ぎが漏れる。
「声、出しちゃダメ…夫が、すぐそこに…」
「じゃあ…もっと、我慢させてあげます」
彼は意地悪く、敏感なところを何度も擦ってくる。
私は身体をよじりながら、目を潤ませ、声を噛み殺した。
「ダメ…もう…だめ…」
腰を振るたび、下腹部が甘く震える。
乳房が揺れ、乳首が擦れ、何もかもがひとつの波に飲まれていく。
そして――
「あっ……!」
言葉にならない絶頂が、私をさらっていった。
行為のあと、彼は私の額に口づけし、ゆっくりと服を整えた。
「…すぐ、出ます。起こさないように」
「ありがとう」
ただ、その一言だけを残して。
リビングに戻った彼の足音と、夫の寝息が交差するその夜――
私はシーツを握りしめたまま、まだ彼の熱が残る内腿を閉じることができなかった。


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